私のあいした世界

 元の世界での私は教皇様とルキウスの為に戦った。
 リカンツ狩りには反対の立場だったし今の教会にも思うところはあったけれど私は僧兵だったし、何より親である教皇様のことを裏切れなかったのだ。今となっては家族だからこそ止めるべきであったのだと思う。私も、ルキウスも、決定的に選択を間違えた。
 ルキウスがカイウスと戦う姿を私は見ていない。カイウスたちを足止めする為に彼らと戦った私は無様に敗北してルキウスのところまで駆けつけることも出来なかった。
 ——今も私の中で燻っているのは後悔と罪悪感だ。
 教皇様をお守り出来なかったこと、過ちだと理解しながらも教会を離れることが出来なかったこと、罪のないリカンツ……レイモーンの民たちの迫害を助長させてしまったこと、ルキウスを生き別れた兄と戦わせてしまったこと。他にもたくさん。

 ルキウスにレイモーンの民の血が流れていることを私は知らなかった。あの子はどんな気持ちでレイモーンの民を異端者として捕縛していたのだろう。私は家族なのに、何も知ろうとはしないまま彼を苦しめていたのではないだろうか。
 たった一人、苦しんでいたルキウスをもう二度とひとりぼっちにはしない。私が帝国を離れない一番の理由だ。ルキウスが自由になって目を覚ましたとき、すぐにこの場所を離れられるよう準備は進めているけれど。
 カイウスやルビアは帝国を離れて今は黒衣の鏡士と協力している。彼らであれば私のことはともかくルキウスの為に力になってくれるだろう。



 ルキウスが目を覚ましたのは三日前のこと。
 ずっと眠っていたから体力も落ちている筈だし暫くは静養の為に身動きは取れそうにないけれど彼が意識を取り戻したことに私はひどく安堵した。

「ルキウス、お粥くらいなら食べられそう?」

 今まで意識がなかった人がいきなり健康な人と変わらない食事をとることは出来ないだろうし、かといって食べないと回復もしない。お粥や果物ならば大丈夫だろうか。ぐるぐると考えながら食材を用意する。

「アルエット、ボクのことならそんなに心配しなくても……」

 ルキウスはそう言っているけれど、意識が戻ってすぐには立ち上がることすら出来なかったのだ。
 この三日、何とかリハビリをして歩けるようになったとはいえまだ本調子ではない。仮に今戦闘になったらルキウスはプリセプツを使えないし、ルキウスほど強くない私はルキウスを守ることすら出来ずに敗北するだろう。
 ——私にとってはこの世界でたった一人の家族なのだから、心配くらいさせてほしい。尤も、ルキウスには血を分けた兄がいるし彼とは和解しているのだから私だけが家族というわけでもないしもしかしたら私のほうがルキウスに依存しているのかもしれないけれど。

「……ねえ、ルキウス」
「アルエット?」
「帝国がやっていることも、メルクリアがルキウスにしてきた仕打ちも、私は許容出来ない。だから私はいつかきっと、ルキウスをこの場所から逃がす」

 メルクリアは——きっと悪い子ではないのだと思う。まだ幼い彼女は誰からも何も教えてもらえないまま育ち、善悪の区別がついていないだけで。
 それでもメルクリアが私のこの世界でたった一人の家族の命を弄んだことは許容出来ないし、このまま帝国に所属してルキウスを使い潰されることだけは絶対に避けたい。
 私だけならば良い。元々は家族に愛されずに朽ちる筈だった命だ。ルキウスを見逃す代わりにお前はこの場に残れと言われたら喜んで残るだろう。

「アルエット、また余計なこと考えてるだろ」
「そんなことないよ」
「……キミは嘘が下手だよ、自覚はないのかもしれないけど」

 私は教皇様の分まで、ルキウスを愛し彼を見守っていきたいと思っている。