⒈ワールズエンド・アクアリウム(アリトレ+タロウ)


 その姿、声を聞いた瞬間に頭の中で光が弾けた、様な気がする。
 タロウは深く吸い込んだ息を吐いた。珈琲色のような泥臭い感情が心中に渦巻いている。何をどう語りかければいいのか。目の前の古き友に対して。

「やあ、トレギア」
「やあ、タロウ」

 結局、最初に放った言葉はとても簡素なものだった。

 名も無き星の上でただ2人。今は身分も立場も関係無い。ただのM87星人として会いたいと要求してきたのは意外にもトレギアの方だった。
 タロウだけに秘密のテレパシーを送って。  

(これは吉兆と言うべきか…?でも、君は並行同位体だけれども…)

 アブソリュートの多次元を渡る能力は想像以上の脅威だろう、確かに。この宇宙では亡くなった友の姿をまたこの目で見られるとはカケラも思わなかった。タロウの中で、諦めにも似た感情で押し込めていた感情がまた目を覚そうとしている。
自覚すれば、少しだけ目眩がした。

「元気そうで何よりだね。君は老いても変わらず眩しい」
「そう、か。喜んでいいのかな?君は…僕が知る君ではないけど、また会えて嬉しいよ」
「私も嬉しいよ。こうしてまたゆっくり君と語り合える」

 煽る様な口調は並行世界でも変わらないらしい。
 タロウは思わず苦笑した。
 とりあえず命の獲り合いはしなくてすみそうだ。

「そう言えばアブソリューディアンの星には帰らないのかい?」
「あんな星に今や興味は無い。当てもなく気ままに彷徨っているさ。この好奇心を満たす為にね」
「無駄な話だとは思うけど、光の国に戻る気は?」
「無いな。いくら君の頼みでも私の決意は変わらない」
「まあ…だろうとは思ったよ。でもこうしてこっそり私に会いに来てくれるのは嬉しいかな」
「元の宇宙に帰る事も考えたがね」

 ふと溢した彼の言葉にタロウの息が詰まる。本気なのかと。せっかく会えたのに。
 どこか縋るような目でトレギアを見つめた。トレギアは揶揄う様な微笑を浮かべている。昔と変わらない友の顔だ。もうこの世界の彼はいないけども、それでも目の前の彼がいなくなるのはーーー
「それは、本気かい?」
「元々私は別次元の私だ。ここに留まる理由もない」
「…タイガも君と話しがっていたよ。もっと話せば分かり合えるんじゃないかって。何故、急にそんな事を言うんだ。私だって何も伝えきれていないのに」
「親子揃って熱烈だな…だが悪い気はしない」

 ただの冗談さ、と揶揄う様に言い放った親友の腹の底が知れない。肩透かしを喰らったような脱力感を味わいながらも、タロウは幻ではない目の前の親友とさてこれからどうするべきか?などと考えを巡らせ始める。

 きっとこれから先に変わる何かがあると信じて。


(1.終)
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