自分がふと物心ついた頃には、朧げだが彼の横顔を見上げていたような気がする。
まだ幼児だった頃。父であるタロウと談笑する彼が遠い未来で敵対するなどとは夢にも思わなかった、幸せで無垢なあの頃を思い返して時折胸が痛むのですーーーと。
そう偽りなく言えば、タロウは嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。お前もそう思ってくれるんだな」
「あの時、彼は俺を殺そうとしませんでした」
タイガは物憂げな表情でそう話す。去り際に彼は本音を吐露して行ったけれど。それでも戦わなかったのだ。今までの行動を考えればあり得なかったことだ。
そう思うのは自分だけではないはず。
「お前の訴えに少しでも心を開いてくれただろか。・・・いやそれは甘いかな。私もまだまだ冷酷になりきれないらしいね」
自嘲気味にそう呟くと、タイガは慌てたように首を横に振って否定する。
「それは違います!少なくとも俺にはまだ・・・あのトレギアは俺や父さんの知っているトレギアとは違うからまだ可能性があると信じているんです」
「と言うと?」
「分かり合える、とまではいかなくても敵対するまでに至らなくなるのは大きな収穫だと思うんです。後・・・」
「後?」
「なんだかんだであのトレギアは父さんのこと大好きだろうし」
「言うね〜!さすが僕の息子だねタイガ・・・!」
「はい。あの、怪しい意味じゃなくて、何というかベクトルが振り切れた異常な友愛というか。父さん、昔からそーゆーの妙なのに好かれるじゃないですか」
「うーむ。否定できない所が我ながら悲しい」
「だからこそまた会えるような気がして」
決意が込められたような言葉にタロウは少し驚いた。
「会ってどうする気だい?」
「それはまだ分かりませんが、あのトレギアにはまだグリムドが憑依していない状態なら何とでも話し合う機会があるはずですよ」
「アブソリュートの力がまだ残っているか・・・は疑問だが、可能性は大いにあるなぁ。後、これはゾフィー隊長も懸念していた事だけどもしも近くにベリアルがいるとしたら少し厄介な状況かもしれない」
並行同位体のベリアルに話し合いがしたいと願っている者も複数人いるのだから、その行方は当然知りたいはずだ。トレギアの性格からして共に行動しているのだろうか?旧友ながら、あの頃は自分が強引に連れ出していた記憶もあるし必ずしも一緒にいるとは限らない。
まぁ、いいか。
タロウはフゥッと息を吐いて椅子に背中をもたれ掛ける。あの最終決戦からまだそう時間は経っていない。疲労感は否めない。だが先に侵略宣言を受けてから後も、消耗状態とはいえまだアブソリューティアンに対して警戒体制を緩める訳にはいかないのだ。
正直に言えば、似たような進化を辿った知的生命体と和解できず戦争を始めてしまった光の国に対する周囲の評価は厳しい意見も少なからずある。
外交的な交渉や政治面は主に大隊長が兼任しているが、昨日は苦笑いを浮かべながらも帰宅直後にラブドックとタイガを全力で包容しているのを見るに相当疲れているのだろう。気持ちは痛いほどよく分かった。ラブドックとタイガは父の癒し要因として職務に励んでもらいたい。いやタイガもタイガで仕事はあるけれど。
「ともかく、もしもこの先トレギアを見かけることがあれば、まず私に報告を上げてくれないか?それと私の指示抜きでくれぐれも彼に接触しないよーに。・・・分かった?」
「はい、父さん。ベリアルの方も同様にすれば?」
「ベリアルは・・・うーんそうだね。それはゾフィー隊長に報告で良し。ジードとゼロには隊長の指示を仰いでからにした方がいいだろう。きっとややこしい事態にならなくて済むし」
なんだかんだでベリアルと因縁の深い2人のことだ。並行同位体であると分かっているだろうが、それでも微妙な不安要素が残るのは致し方ない。
それでは失礼します!と敬礼してタイガはタロウの執務室を去った。1人残されたタロウは、ふとかつてトレギアに贈られたタイガスパークと、【タイガ】の名前の由来を思い返していた。彼と共に考えた我が子の名前の由来をトレギア自身も覚えているだろうか。いや、きっと覚えているはずだろ。彼は優秀で、真面目で、あまりにも繊細過ぎて。
そんな彼が強くなりたかった原因がもしも自分にあるとしたら、彼にどんな顔をして会えばいい?
「・・・って、何を考えているんだよ僕は!思春期の子供じゃあるまいし!そう言えば余計な事まで深く考えるのは悪い癖だってあいつに散々言われたっけ!」
どうしてこんなセンチメンタルな気分に浸らなければならないのだ!とタロウは勢いよく椅子から立ち上がった。
(2.終わり)
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