足りない

「我愛羅、この書類にもサインしといてくれ、あと今日午後から会議じゃん。それから今度行く木の葉のアカデミー視察の件だが、砂の教育方針についても火影と話し合う事になってるからよ、資料作っといてくれよ」

「…分かった」


カンクロウに言われた通り、渡された書類にサインをしていきながら午後からの会議の資料も確認していく。

風影になってもう何年も経つが、会議や多里訪問がこういくつも重なると忙しくて仕方ない。

任務の振り分けもしなくてはならないし、完了した任務の報告書にも目を通さないといけない。
それをこなしながらの会議や会談にも顔を出さねばならないのには何年経っても目が回りそうだ。


「…おい我愛羅、手、止まってんぞ」

「ああ、すまない」


忙しい、と思っていると無意識に手が止まってしまっていたらしく、兄貴から指摘を受け再度公務に集中する。


「あー、そういや今日、予定通りだと名前が帰ってくるじゃん」

「…そうか」


書類に目を通し、サインを次々としていく最中でカンクロウからの思わぬ発言に一気に意識がそちらへと向いた。

名前と俺は所謂恋人同士で、上忍である彼女は今、多里へと任務で出向いており数日前からいなかった。
そんな名前が今日帰還という事など、忙しいあまり忘れてしまっていた。


「夜までには戻ってくると思うが、…会いに行くなんて無理だぜ。お前は仕事が詰まってんだ」

「………そうだな」


ならなぜ俺にわざわざ名前が帰ってくることを言ったんだと、心の中で愚痴をこぼすが、結局のところ名前が帰って来たとしても仕事に打ち込めよというカンクロウのささやかな圧力なのだと気づき落胆した。

ここ最近、俺は風影として、名前は上忍として互いに忙しい日々を送っていることからなかなかゆっくりと二人の時間を過ごすことができていない。
会って話しをすると言っても、任務完了の報告だとか業務的な事で一瞬。それくらいなのだ。

簡単に言えば、足らない。名前が足らない。

そんな事が頭を霞めながらも手元の書類を確認しつつ公務に勤しんだ。




「我愛羅、そろそろ会議の時間じゃん。行くぜ」

「…ああ」


しばらくしてから、カンクロウの呼びかけによりもうそんな時間かと、意外によく集中していた自分に驚きながら会議室へ行くべく席を立った。















「もうこんな時間かよ、今回の会議はいつも以上に長かったじゃん」

「皆、里の事をよく考えてくているからこそだ」

「上役のどうでもいい話も混じってたけどな、このクソ忙しい時に無駄話は勘弁してほしいぜ。とりあえず腹減ったしよ、飯行こうぜ」


会議が終わって窓の外を見ると、最初は真上ほどにあった太陽は少し傾いて、うっすらオレンジがかっている。

他愛のない会話をしながらカンクロウは身体を伸ばし、間延びした声をあげているのを横目で見ながら執務室へと戻る中、廊下の先で見覚えのある姿を見つけ、思わず頬が綻んだ気がした。


「お、あいつ、名前じゃん?」


カンクロウも同様に姿を確認すると、おーい!と声をあげ俺が今一番会いたかった人物、名前を呼び寄せた。


「風影様、カンクロウさん、お疲れ様です。会議だったんですか?」

「ああ、それにしてもお前、早かったじゃん。」

「そうなんですよ、思ったより早く帰還できました〜。私も成長してるんですよ」

「お前、成長してるってのは自分で言うもんじゃねえよ」


呼ばれたことによって走り寄って来た名前は、俺達二人に向かって挨拶を済ませた後、カンクロウと楽しそうに喋りながらまた執務室へと足を運ぶ。
そんな二人の姿を一歩後ろから見ていて、こんなに会いたいと思っていた人物が目の前にいるのにろくに声もかけられないなんて、なんだか情けないと思うのと同時に、これほどまでに会いたいと思っていたのは俺だけなんだろうかと、胸の内がモヤモヤとして行く感じに襲われた。


「そういや名前、お前飯食ったか?ちょっと遅めの昼飯…いや早めの晩飯になるか、俺と我愛羅はこれから行くから付き合えよ」

「あー、いえ、私これから同じ上忍たちと飲みに行くんです。陽がある内から夜まで飲むのに最近みんなでハマってて」


執務室に入りカンクロウが食事の誘いをするが、どうやら先約があるらしい。

良いですよ〜明るい内から飲むのは、と嬉しそうに言いながら報告書をカンクロウに渡し、それでは失礼します、と一言残し早々に執務室を出て行く名前を無言で静かに見送った。


「…我愛羅、そんな顔すんなって」

「どんな顔だ」

「………いや、なんでもねえ」


無意識に眉間にでも皺が寄っていたんだろう。カンクロウにはどんな顔だと質問を質問で返すような野暮な真似をしたが、自分が今どんな表情になっているのかくらいは分かっている。

記憶を辿ると名前は今日の任務が終了した時点から、明日も丸一日休暇なはずで。
そうなるとしばらく会っていない恋人である俺に一番に会いたいと、次の日が休暇であることも利用して、ずっと一緒に居たいと思うのが普通と言うやつではないのか。
もしそう言われるなら、会議の資料作りだろうがなんだろうが早急に終わらせて名前に会いに行きたいと俺は思うのだが。

ぐるぐると考えれば考えるほど、名前の気持ちが分からないなんて思いながら、それでも仕事をしなければと、なんだか哀れみを含んだ目で俺を見て来ている兄貴を食事なら一人で行ってくれと追い出し、余計な考えを捨て公務に集中することに決めた。