03

「ね、私の家にかえるの?」

「ああ。もう帰って休むといい」

「…があらは帰っちゃうの?」


店を出てこのまま彼女の家まで送っていこうと、ゆっくりと夜の道を歩いていている最中、どうやら少し落ち着いて来たらしい彼女が背中から声をかけて来る。

帰るのかと聞かれて、ああ、と短く返事をしてみるが、その後の反応がしばらく無いので寝てしまったのかと勝手に解釈していると、急に捕まる腕の力が少し強くなった。


「今日ね、久しぶりに我愛羅の顔が見れて、嬉しくっていっぱい飲んじゃった」


小さく呟く様にして話をして来る名前の声は今にも寝てしまいそうだがどこか嬉しそうで。
さっき機嫌が良いと言っていたのはそう言う意味だったのかと、少し前まで靄がかかっていた心がその一言で晴れて行く気分に陥った。


「ご飯誘ってくれたのに、断ってごめんね。先に約束しちゃってたから。…すごい、会いたかった」

「…」


会いたかったと言われてさらに気分が高揚し、一瞬反応が遅れてしまって何も言えずにいると、我愛羅は?と聞かれた。
外気は少し冷えているのに、名前が喋るごとに耳に息がかかってそこだけ熱い。


「…俺はお前が足らなくて、どうしたのもかと困っていた」

「足りない、?私が?」

「ああ」


会いたかったのはもちろんあるが、そんな言葉で片付けられる様なものではないという事を、足りないという言葉に込めた。
だが遠回しの様なその言葉では、酒が入っている事によりなかなか理解ができない様なので、会いたくて仕方がなかったという意味だと付け加えた。

普段あまりそう言った言葉をストレートに言わない俺から、会いたかったと聞けて嬉しいのか、フフと笑いながら嬉しいと言って、俺の後ろ頭に顔をすり寄せて来た。


「ね、じゃあ今は?満たされた?」


今日はやけに質問して来る。
いつも天真爛漫で、明るい名前も、俺と二人きりになった途端口数が減り、いつも恥ずかしそうに顔を伏せているのに。
恥ずかしげも無く、満たされた?などと言ってくる彼女の顔は見えないが、きっとニヤニヤと、眠そうながらも無邪気な子供の様な顔をして聞いて来ているに違いない。

酒の所為でこうなっているのか。眠さの所為でこうなっているのか。どっちもか。
なら折角だ。今のままの名前に心の隅々まで満たしてもらと、口には出さないがこのまま俺の部屋まで連れて帰る事に決めた。

連れて帰って、朝まで俺がどれほど名前を愛しているか、どれほど名前不足だったかを教えてやろう。
それで酔いが覚めた頃に、思い出して顔を赤くすればいい。


「我愛羅、?」

「……まだだ。お前が我愛羅と呼んでくれている事で少し満たされた気分だが、それでもまだ足りない。全然だ」

「…!っ、あ、ご、ごめん、あれ、私無意識で、」


とりあえず軽いジャブ程度で、お前は今俺の事を風影と呼んでいないぞという事を教えてやると、突然背中から伝わる名前の心臓の音が大きくなった。
と思えば、先ほどよりハッキリとした口調になったので、どうやら眠気が飛んだらしい。
意識が少しハッキリして、同時に今の状況に恥ずかしさが込み上げて来たのか、降ろしてくださいと言ってくる。

だがそんな事は関係ない。眠気が覚めようが酔いが覚めようが、俺を満たしてくれという気持ちは変わらない。
ハッキリした意識の中でどう満たしてもらおうか、何をして、何をしてもらって、恥ずかしがる名前の顔を見るのもこれまた一興。などと考えながら名前の家に続く道とは違う方向、風影邸内にある俺の自室がある方へと歩みを進めた。


「あ、あの、私の家、あっちなんですけど、…それになんとなく酔いも覚めたみたいなんで、自分で歩けます、」

「知らないな。俺の気が済むまで、今日はお前を帰すつもりはないと先程決めた」


なんと言われようと降ろす気も無いし、親切丁寧に家まで送る気は今更無い。
それをハッキリ伝えて、名前は慌てふためくだろうか、無理やりにでも俺の背中から降りていくだろうかと考えたが、意外にも俺の考えはどれも外れていて。
名前は離れるどころかしがみつく力を少し強くして、俺の耳元で短く息を吸った。


「…、じ、実は私も、今日は…帰りたくありませ、ん」

「…!」


小さい、殆ど囁きに近いような声でそんな事を言うものだから、一瞬我を忘れて道端に名前を降ろし、押し倒してやろうかと考えがよぎったが、そこはグッと堪える。
当の本人はそれ以上何も言わず、恥ずかしさのあまり背中で縮こまっているようで。

帰りたくありませんの一言でそこまで羞恥心に襲われてしまっていては先が思いやられるな。
だが煽って来たのは名前だ。それなら俺もそれに答えてやろう。と歩く速度を少し早めた。


まだまだお前が足りない。



おわり

きょんしー様リクエストで、夢主ちゃん不足の我愛羅君でした!
なんだか最後、少しブラック気味になってしまいました…!
こんな我愛羅君でよかったでしょうかと不安ですが、
リクエストありがとうございましたー!!