05
「奥さま!頑張って!」
「ふんぬうううううう……!」
「もう少し、もう少しですよ!」
「く、ううううう……!」
…………
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ!」
病院へ来てからどれくらい経ったのか。
痛みと闘い続けて、私は漸く我が子を産んだ。
額に汗でひっついた前髪を直す事もせずに、乱れる息をひとまず落ち着かせれば、タオルに包まれた小さい娘を手渡される。
小さいながらに生きている事を必死に伝えようとして泣いている娘を抱いた瞬間、ああ、私ついに子供を産んだのだと実感が湧いて、幸せのあまり涙が溢れた。
「名前」
「我愛羅君、ほら見てよ。女の子だよ」
「ああ」
私の要望で、立ち合いはせず、産まれるまで部屋の外で待ってくれていた我愛羅君が、待ってましたと言わんばかりのタイミングで部屋へと入って来た。
少し落ち着いたのか泣き止んだ娘を我愛羅君の方へ少し向けて見せると、彼は短く返事をしながら、湧き上がる何かに耐えているような表情になった。
「……本当に、なんと言えば良いか」
「ん……あれ、我愛羅君、泣いてんの?」
我愛羅君のその顔は、私の抱く我が子を見つめながら酷く穏やかな表情を浮かべていて。
それでいて、隈の酷い目元からは光る滴が今にも溢れそうに揺れていた。
「……嬉しいんだ。今くらいは許してくれ」
「我愛羅君が泣いてるの、本物見たのは初めてかも」
前の世界にいた頃、漫画でもアニメでも、何度も見返した我愛羅君の泣くシーン。
少年で、戦争中で、お父さんと戦うあのシーンは何回見ても泣かずにはいられなかった。
そんな我愛羅君をいつも、可愛いなあ、なんて思ながら見ていたあの頃の彼が今、横にいるみたいで思わず笑みが溢れる。
「あ、いや、泣いてる本物見たのは二回目かな」
現代の、私の世界を頭の奥で見つめながら思い返してみると、そういえば、我愛羅君が私の世界に来て、いつの日かプチ旅行へ行った時も一度幼い子供の様に泣いてた時があった事を思い出して「我愛羅君て意外に泣き虫だね」と茶化せば「お前も泣いているだろう」と笑った。
その後、数日間私は病院で過ごし、漸く風影邸へと戻って来た。
勿論娘も一緒に。
病院へ迎えに来てくれた我愛羅君と共に数日ぶりの屋敷へ入れば、シンキ君が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。
「ただいま、シンキ君」
「……その子が」
「そう。無事産まれました」
むにゃむにゃと私の腕の中で眠っている小さい娘を見て、表情は相変わらずの無表情だけど、なんだかいつもより柔らかく見えて嬉しくなる。
抱っこしてみる?と小さな娘をそっと差し出せば、意外にも慣れた手つきで娘を抱きかかえるので驚いた。
更に少し身体を揺すりながら、母親よろしく上手くあやしていて。
「え、なに、あやすの上手くない?お母さんなの?」
「……少しですが任務で経験しましたので」
「おお……任務!」
驚きながら、なるほど任務かと納得はしたけど、流石シンキ君といったところ。なんでも直ぐこなせちゃうのはやっぱり天才なのではなかろうか。
そんな天才シンキ君の腕の中で、泣く気配なんて一ミリも無く穏やかに眠る娘はなんだかとても幸せそうだった。
「我愛羅君が抱っこした時はすんごく泣いたののにねー。我愛羅君の事は怖かったのかなー?」
「……」
ついさっき病院で我愛羅君が抱っこした時はシンキ君と違って盛大に泣いていた娘の事を思い出して、ほっぺをぷにぷにとつつきながら冗談をかましてみれば、隣からじわじわ負のオーラが漂ってきて慌てて「冗談だよ」と訂正。
だけどまあ、私に似て育ったとしたら娘もきっと我愛羅君の事を大好きになるんだろうなあ、なんて考えれば頬が緩んだ。
将来、この子はどんな子に育つんだろうか。なんて、そんな事は分からない。
私に似るのか、はたまた我愛羅君に似るのか、それともシンキ君の影響を強く受けて育つのか。
どうなって行くのかなんて全然分からないけど、ただ、今は産まれて来てくれてありがとうと思う。
それに、この世界の事が右も左も分からない私を優しく受け入れてくれて、この子を産むきっかけをくれた我愛羅君とシンキ君に改めて感謝した。
「ねえ二人とも」
娘をあやす二人に声を掛ければ、揃って「なんだ」と言った事に面白くなる。
ふふ、と微笑みながら片方の手で我愛羅君の手を握って、もう片方の手は娘を抱いているシンキ君の頬に添えてから、ありったけのありがとうと大好きを込め、
「これからもよろしくね」
そう言った。
今日も今日とて、家族と一緒。
おわり