04

妊娠が分かってから一悶着あり、そして早いもので私のお腹は見事に膨れ上がっていて予定日も着々と近づいていた。

不安もあれば楽しみもある。
まさか自分が子供を産むなんて、今でも本当に?と疑いそうになる程まるで現実味が無かった。
一番心配していた悪阻なんてのも割と軽い方で、本当にこのお腹の中には命が宿っているのかと思うくらい、私はなんら変わりない生活を送っていた。
だけど、妊娠が分かる以前より、明らかに変わった人が二人。

我愛羅君とシンキ君だ。


私が一人で買い物へ行こうとすればシンキ君が自分も行くといって聞かないし、我愛羅君に至っては二人並んで歩く時必ず肩を支えてくる。老人かよ私は。
まあ我愛羅君の異常な過保護ぶりは前から分かってたし慣れたもんなんだけど。

だけど二人の過保護は優しさからくるものだとわかっているので邪険になんてできないし、するつもりも無いので、今日もそんな二人と一緒に朝食を食べ、仕事へ行く彼らをお見送りしているという現状。

「いってらっしゃーい」

「名前、何かあれば直ぐに言ってくれ」

「義母上、無理をするのは厳禁です」

「はーい」

もういつ産まれてもおかしくないという期間に突入してから、二人のこの台詞はもう何度も聞いていて、最近では返事も適当になってしまっているけど、心配してくれるのはとってもありがたい。
たまにもぞもぞと私の中で動くこの子に、周りの皆が翻弄されているのが凄くおかしくて、産まれてきたらどうなっちゃうんだろうと考えれば自然と笑みが溢れる。


二人を見送って、食べ終えた朝食の食器達を洗い、お昼までには洗濯を済ましたいなどと思いつつ、いったん一休み。
お茶を淹れて、砂が風に舞う窓の外を眺めていると、突然じんわりお腹が痛くなった。

「い、」

もしかして、もしかすると?そうなの?そうなのか?!
じわじわ痛みが酷くなってきて、グラスを持った手に力が入る。
経験した事の無い腹痛に、コレは間違いなく陣痛じゃないかと、我愛羅君を呼びに行こうと立ち上がるけど、腹が痛くてそれどころじゃ無い。

「ういいいい……いたいいいい」

なんだっけ、陣痛って波があるんだっけ。
この痛さじゃろくに動くことなんてできないし、波があるというのが本当なら、今は我慢してマシになったら我愛羅君を呼ぼう。

最早「痛い」としか考えられない頭を必死に回し、どうにか今を耐え抜く事に決めたけど、その後直ぐ、今よりももっと酷い痛みが襲ってきて奥歯が砕けるんじゃないかってほどにギリと力が入る。

「う、あ、いいいい」

これ、最初の痛みの方が"マシ"な痛みだったって事じゃないか。
え、まって、最悪なんだけどめっちゃ痛いんだけど何これ皆経験してんの?そうなの?

「ちょ、まじ……っやばすぎ」

これ以上痛みが緩やかになる事は無いと察した瞬間、かなり絶望した。
大声を出そうにも、息も絶え絶えで出せそうにないし、動くなんて尚のこと無理だし、どうすればいいのか分からない。
完全に余裕かまし過ぎてた。こんな事なら一人で過ごさず執務室に入り浸るんだった。


「いいいい……、」

最早自分の口からは「痛い」の言葉しか出てこないけど、早く誰かを呼ばなきゃと焦る。
こんな時、携帯さえあればすぐに電話できるのに、

電話……

「っ、けいた、い!」

よく考えれば風影の執務室には電話があるはず。
あまり使う事のなくなってしまった自分の携帯を、もしもの時の為にいつもポケットに忍ばせていた事を今漸く思い出した。

カタスケさんに見てもらっていて本当に良かったと思いながら、慣れた手付きで風影の執務室へと繋がる番号を探し、通話のボタンを押す。
ワンコール、ツーコールと発信音が鳴って、それが止まったと思えば低く聞き慣れた声に変わった。

「が、らくん……あ、の」

息も絶え絶えの状態で、電話の向こうの彼を呼ぶ。
名前すらもちゃんも呼べていなくて、今どういう状況なのかも上手く言えなかったけど、我愛羅君はすぐに察してくれたみたいで、「待っていろ!」と言ってくれ、その後すぐにガタガタと大きな音が電話越しに聞こえた。


そして数分も経たないうちに勢いよく部屋の扉を開け、駆けつけてくれた我愛羅君に連れられて、病院へ向かったんだった。