02

戦争が終わってからというもの、様々な所から届く文書というものは一般人が管轄している郵便屋を介して届けられるようになった。
あまり重要な文書ではない、という訳ではないが、極端に極秘にしなければならないという事が、平和になった今、目に見えて減った事でわざわざ鷹を飛ばすまでもない文書が増えたという訳だった。

それでも、念には念をと風影宛の物はいつも俺もしくはカンクロウへ直接届けて貰うよう配達屋には頼んであり、これまでも何回かは砂隠れにある配達屋から文書や荷物が届けられた事があった。

そしてあの日、俺に荷物を届けに来たのが彼女だった。
あの日は俺自身、立て込んでいた事もあり多少機嫌が悪く配達に来た彼女を邪険にしてしまい、俺の態度に気を悪くしたのか、彼女は無言で執務室を出て行った。
その時は気にも留めなかったが、後々、悪い事をしてしまったと考えるようになり、一言彼女に謝りたいと思った俺は自分で自分に手紙を出した。
あの日の彼女の様子を考えれば、もう一度配達に来る確率はもしかしたら低いのかもしれないとも思ったが、俺が直接配達屋に赴くよりは迷惑にはならないだろうと思っての事だった。
だがそんな心配とは裏腹に、俺が自分に出した手紙を持って来たのは紛れもなく彼女で、あの日は悪かったと一言伝えようと思った瞬間、何故かどうにも言葉にできず、結局またあの日と同じような結果を招いてしまった。

たった一言、すまなかったと言えば済むのだが、その言葉を言うまでの会話術を、俺は身につけていなかったらしい。
どのタイミングで、どんな表情で、どう切り出せは良いのか。深く考えすぎだと他人からは言われるだろうが、俺にはどう会話にもっていけば良いのかがよく分からなかった。
例えばナルトのような人懐っこさも、シカマルの様に巧みに会話へ持ち込めるスキルも俺は持ち合わせてはいなかったが、兎に角もう一度と、俺自身に手紙を出し、そして失敗に終わり、また手紙を出し、失敗するという日が続き、ほぼ毎日手紙を出していた。

そんなある日、カンクロウと里内を周っていた時、俺は仕事中なんであろう彼女を見つけた。
俺のところへ来る時と同じ、大きな鞄を肩から下げて一軒の家の前で立ち話をしている様子の彼女は、穏やかに笑っていて。
俺は彼女がその場から立ち去るまで、その笑顔から目を離す事が出来なかった。


それ以降、気づけば俺は当初の目的だった謝るという事よりも彼女のあの笑顔をいつか俺にも向けて欲しいと、そう思いながら手紙を出していた。
そして、今まではどう接していいのかが分からず自らの手で手紙を受け取った事さえ無かった事を考え直し、執務室へ来た彼女の元へと歩み寄り直接手紙を受け取ったが、それに対して彼女が驚いた顔をしてみせた瞬間心臓が跳ねた気がして、内心慌てた俺は結局彼女を追い返すような言葉を投げつけてしまった。


「……俺はお前が来る度なんとか声を掛けようとしたが、どうにも上手い言葉が見つからずいつもお前の気分を害すような言葉を吐いてしまっていた」

「………」

「今更だが……すまなかったな」

立ったまま、彼女に出会った日からの事を淡々と事細かく話せば、最初はこちらを見ていた彼女がだんだんと下を向いていった。
あの手紙を出し、毎日のようにこの執務室へ持って来させていたのは故意あっての事だと聞かされた彼女は何を考えるのか。
きっとそんな事をされていい迷惑だったと言われるだろう。
こうして彼女に全て伝えた時が、最後だと考えていた。
だが俯いたせいで落ちた髪の間から覗いた彼女の肌が少しだけ、先程よりも紅潮しているのが見えて、その瞬間、気付けば俺は彼女の頬へと手を伸ばしていた。


「っ、あ、の」

「……すまない、嫌なら振り払ってくれていい」


俺は自分が思っている程、自分勝手で我儘なのかもしれない。
紅潮した彼女の頬の温度が添えた掌から伝わってきて、その温度の高さに勝手に期待を膨らませてしまう。
最後だと思っていたにも関わらず、振り払われない手を滑らせて彼女の髪を耳にかければ赤く染まった頬が露わになって、また手紙を出しても良いだろうかと考えてしまった。


「……あの、風影様」

不意に彼女が俺の手を取り、染めた頬はそのままに視線をこちらへ寄越す。
その目は驚きと動揺に溢れていて、唇は何か言いたそうに震えていた。
「なんだ」と、真っ直ぐ視線を合わせて言えば、彼女は少し照れた様子で話しだす。


「か、風影様がそんな風に思っていたなんて、知らなくて……その、正直、あの態度はなんなんだと思ってました。その事は、すみません」

「ああ」

俺はきっと、彼女のこういう所にも惹かれたんだろう。
風影という立場もあり、俺と関わる人間はいつも何か壁を作っている様に思えて、失礼の無いようにだとか、そういった感情が丸見えになっている人間を見るのに疲れていた。
だが彼女は、誰に対しても物怖じせず自分の感情を表へ出せる、良くも悪くも正直者という辺りに、俺は感情を揺さぶられたんだと思った。

「それで、その」と何やら言いにくそうな面持ちで続けた彼女に、なんでも言ってくれと伝える。
どんな理由であれ、俺は彼女に対してストーカーまがいな行為を、立場を利用して行ったわけであって、それは自分でもよく分かっていたからこそ、彼女に何を言われても受け入れようと思っていた。

「も、もう手紙は……出さないでください」

「ああ」

「……き、……から」

「?」

欲を言えばもっと彼女の事を知りたいとも思うが、彼女から出た言葉は俺を拒絶するものだった。
だがその後、続けざまに言った言葉が聞き取れず「もう一度」と頼めば、彼女はまた、頬を赤く染めながら今日俺に届けに来た手紙をぐしゃりと握った。

「こ、こんなものわざわざ出さなくても、いつでも私ここに来ますから!って言ったんです!」


恥ずかしさを紛らわすような大きな声で、シワだらけになった手紙をこちらへ突き出しながら彼女が言う。
そして「何回も言わせないでくださいよ、恥ずかしい」などと言いながら顔を手で仰ぎそっぽを向いた。

そんな彼女を内心愛おしく思い、俺にもまだチャンスというものがあるんだと思った。
災い転じて福となす、という言葉が当てはまるかは知らないが、彼女に会いたい一心で手紙を出し続けて良かったと今は思う。

これからは手紙など出さずとも彼女はここへ来てくれると言うし、俺もまた、彼女に会いに行こうと思った。
少しづつで良い、俺がこれまでに出した手紙の分だけ彼女に自分の想いを伝えていこう。
そう決めて、これから局へ戻るという彼女を見送る。

執務室を出る際、「お友達から、これからよろしくお願いします」と照れ顔で言った彼女の顔は、きっと一生忘れられないだろう。


おわり

冷たい態度を取ってしまうけどストーカーみたいな事をしてしまう我愛羅君というリクエストをいただきました!
もっとギャグっぽくしたかった気持ちもあるんですが、我愛羅君の不器用さを表現したくてこんな形になりました。
我愛羅君はあまりかまってちゃんなイメージが無いので難しかったですが、書いてて楽しかったです!
リクエストありがとうございましたー!