05

「は、?…え、我愛羅君?何言ってるの?」


我愛羅君の、まさかの発言に一瞬私と母、父の三人は目を剥くが、何故か父と母は直ぐに驚きの表情から一変、真剣な表情へと変わった。

今だに驚きの表情を浮かべている私は何がなんだか分からない。
だってこれは最早告白だ。
しかも親の前で。まるで娘さんを僕にくださいと言わんばかりの発言に、順番が違うのではないか、我愛羅君は一体何を考えているんだと疑問の言葉を投げつける。


「そのままの意味だ。……だが、俺とお前では住んでいる世界が違う」

「……っ」


少しこちらに振り向き、私と目を合わせながらハッキリとそう言う我愛羅君に、胸が痛む。
そうだ。新幹線の中で我愛羅君への気持ちは仕舞っておこうと決めたんだ。

私の気持ちなんて知らないはずなのに、我愛羅君も同じ気持ちでいてくれたと言う事は素直に嬉しいと思う。
だけど、やっぱり住む世界が違うという枷が、相思相愛であったという喜びを上回って重くのしかかってくる。

そんな事、我愛羅君だって分かっているはずだろう。


「…ねえ、住む世界が違うのに、どうやって一緒に生きて行くって言うの?」

「お母さん…、」


いつものおちゃらけた態度とは違う、真剣な面持ちの母に思わず私が動揺してしまう。
だけど確信をついたような母の言葉に、我愛羅君は動揺なんか見せず、芯を持ったような口調で話し始めた。


「俺がこの世界に来たのは、神の悪戯などでは無く、一種の時空間忍術だと考えている。実際、サスケの持つ輪廻眼は別の時空へと飛べる。それを踏まえて俺は、いつか両方の世界を自由に行き来できるように研究を、既にしていた」

「え、そんな事してたの?」

「お前に、……名前にずっと、もう一度会いたいと思っていたからだ。かなり時間が掛かってしまったが、…今、俺がここにいるのは術が成功したからでもある」

「…え?!うそ、…じ、じゃあ自由に行ったり来たりできるって事?!」


何それ早く言ってよ!
そんな話聞いてないー!と我愛羅君を見やるが、言っていないからなと静かに言われる。
…なんか冷たくない?


「……だが、一つ問題もある」

「へ、問題?」

「術はまだ研究段階だ。本当なら俺がお前の前から消えたあの日へ、来る筈だったんだが、少しズレてしまった」


我愛羅君が言うには、今の段階では互いの世界の時間軸を上手く合わせる事が難しいという事らしいが、私は我愛羅君の堅物な口調と難しい話で目を回しそうになっていた。
結局、何がどうなって、何が問題なのか。
それがいまいちピンと来ない。


「……む、難しい」

「つまるところ、今回我愛羅君が名前の所に来られたのは、運が良かったって事じゃないの?」

「運?」

「本当は一年前に行きたかったんだよね?我愛羅君は。でももしかしたら名前が幼稚園児だった時に行っちゃったかもしれないし、お婆ちゃんになっちゃってる時に行ったかもしれない。だからまあ一年のズレなら運が良かったんじゃないの?って事よ」


うーん、と頭を悩ませている私を余所に、
突然、理解者のような顔をして話し出す母。

だからその術の研究がもっと進んで、時間も良い感じに合わせられる様になったら、行きたい時に行けるって事でしょ?と、我愛羅君の話を上手く噛み砕き、更には結論まで出してくれる母に、内心感心した。


「母上の言う通りだ。………そこで改めて俺から言わせて貰う」


母が喋り終わった後、私も成る程〜と声を上げていると、我愛羅君が改まった態度で私に視線を合わせてきた。
と思えば、テーブルから少し身を引き、正座した膝にずっと添えていた手を床へ置いてから我愛羅君は頭を下げた。所謂、土下座だ。

その姿を見て私達親子三人は驚きで固まってしまうが、そんな事は気にもせず、我愛羅君は口を開く。


「…名前、俺と共に砂隠れへ来て欲しい。そして父上、母上、もし名前が承諾をしてくれたのならば、…名前を連れて行く事、許していただけないだろうか」

「…!、が、あらくん、…」


なんだろう。
これは現実なんだろうか。
もしかして夢なんじゃないだろうか。
思いがけないまさかのプロポーズみたいな言葉に、一瞬夢心地な気分になる。
だけど横で頭を下げる我愛羅君の表情をチラリと見れば、いつかナルトで読んだ大戦前の演説を思わせる程の真剣さがひしひしと伝わってきて、その伝わって来たものは本物だった。

言い終えた後も頭を上げようとしない我愛羅君に、最初に声を掛けたのは母。
「頭を上げなさい」と低く響いたその声は、いつものおちゃらけた母の声では無く、決めるところでは決める、カッコいい母の声だった。
そしてようやく、我愛羅君は頭を上げて、私に一瞬視線を寄越してから、父と母の方を見据えた。


「…我愛羅君、さっき言った事は、本気なのかしら?」

「……俺は…昔名前に世話になった礼と、最後に疑いの目を向けてしまった事への謝罪をしたいが為にこちらへ来る術を研究をしていたが、…その内、俺の中で名前の存在がどんどん膨らんでいき、そして昨夜再開した時、もう離したくないと思った。名前がもし、付いて来てくれると言うなら俺は、名前を必ず幸せにする。本気だ。二言はない」


さっきまでの空気とは一変、張り詰めた様な空気に変わった原因は、きっと私の両親にある。
いつもふにゃふにゃとしている人達とは思えない程真剣さで、我愛羅君を真っ直ぐに見つめているからだ。
だがそれもそうだろう。突然漫画の中の人物が、自分の娘をそちらの世界に連れて行きたいと申し出ているんだから。

静まり返った部屋で、心臓だけが煩く響いている中、「名前はどうしたいの?」と唐突に話を振られた。


「わ、私は、」


話を振られて、急な事に頭が上手く回らない。
我愛羅君の事は好きだ。再開して、離れたくないなんて思って、その後我愛羅君の気持ちを聞いて、同じ気持ちだった事に嬉しくなって。
ついて行けたらと思うこの気持ちは、果たして正解なのか。


「…ついていっても良いのか、分からない……だって、我愛羅君の事は、す、好きだけど、でも…」


我愛羅君は私の事を大切に想ってくれているだろう。幸せにもきっとしてくれる。
だけど、我愛羅君を信用してない訳じゃないんだけど、
素直について行きたいと言えないのは私自身が向こうの世界でやっていけるかが不安なんだ。
ただでさえ家族と離れるというのもあるのに。
忍者のいる世界。平和な日本とは違って、死がまとわりつく世界。
どう考えたって無理だ。
好きとか云々だけで乗り越えられる壁じゃない気がしてしまう。


「はあ……名前、あんたねえ、」

「え、何、」


不安と動揺から、モジモジと下を向いて黙ったままでいると、わざとらしいため息が聞こえた。
顔を上げるとため息を漏らした人物、母は呆れた表情を浮かべていて、目を細めながら私に向かって「馬鹿じゃないの」と続けた。


「我愛羅君みたいな良い男、捕まえとかないでどうすんのー?どうせ、世界が違うからどうのこうのとか考えてんでしょー」

「え、いや、考えるに決まってんじゃん…!」

「そんなの大した悩みじゃないでしょ。言葉が通じるんだから余裕余裕!それにいつか自由に行き来できるようにするって、我愛羅君も言ってるんだし、そうなったらたまに帰って来ればいいし?あ、私達も行きたいけど!ね、お父さん」

「そうだぞ名前。とても良い人じゃないか我愛羅君は。あ、お父さんの方が良い男だけどね?というか逆になんでそんなに悩むのかお父さんは謎だ!都会に出て行く時はあんなにアッサリ出て行ったのになー」


え、なんなんだこの人達…。
さっきとは違ってふにゃふにゃに戻っている我が両親に、自分の悩みが吹っ飛んだ気分だ。
あ、もしかして私を密かに後押ししてくれた感じなのかな。

ふざけてるけど、流石は血の繋がった親というものだろうか。
確かに都会へ出て行く気分で行っても、良いのかもしれないと、私は重く考えすぎなんだろうかと思えてくる。

我愛羅君の方を見ると、この場の空気が柔らかくなったのと同じように、優しく微笑んでいて。
他力本願みたいだけど、我愛羅君が幸せにしてくれるっていうなら、…この人になら、
ついていっても良いかなと思った。


「が、我愛羅君!」

「…?」


もう決めた。私は、


「行く!…私我愛羅君と一緒にいたい!よ、よろしくお願いします…!わ、」


隣に座る我愛羅君へ身体ごと向き直り、声を張り上げる。
その瞬間、ふわりと我愛羅君の匂いに包まれる。
それが抱きしめられたんだと分かると、途端に恥ずかしくなったが、なんだか嬉しい気持ちが恥ずかしさを上回っていて、私も我愛羅君の背中に腕を回した。
小さくキャー!とか言っている両親の声が聞こえるが、そんなの知るか。


「名前、…俺と居てくれる事を選んでくれてありがとう」

「…我愛羅君も、私を想い続けてくれて、ありがとう」


お互い、身体を少し離して見つめ合う。
周りなんか気にならない。もうここは二人の世界だと、そう思って微笑み合っていると、横から「あの〜〜」と気まずそうな声が入ってきた。


「抱き合ってる所悪いんだけど、一件落着って事でそろそろご飯にしない?」

「お父さんはお腹が空きました〜」

「……はあ、良い雰囲気が台無しな気がする…」



結局、そこからは食事を四人で食べながら他愛も無い会話を楽しんだ。
これからよろしくねとか、出来の悪い娘だけど頼むね〜とか。
まあ殆ど私の両親が喋ってたんだけど。
出来が悪いってなんだこのやろう。

我愛羅君はふざけてる私の両親に、嫌な顔一つせず、最後まで微笑んでいてくれた。


これから先、新しい生活に慣れるのにはきっと時間がかかるだろうと思う。
けど我愛羅君がいてくれたら、きっと大丈夫だろうと、柔らかく微笑む我愛羅君の横顔を見ながら思う。

そして、いつか自由に世界を渡れるようになったら、我愛羅君と私と、両親も含め皆で富士山を見に行こうと、我愛羅君は約束してくれた。


その約束が叶うのは、まだ先のお話。


おわり
谷丘様リクエストで、もし大人我愛羅君がまた現代にトリップしてきたら〜というお話でした!
現代で何させようかな〜と悩んだ結果、両親と会わせてみることにしました〜。
そして最後は結局ナルトの世界へ行くというハピエン結果になりましたが、書いてて楽しかったです!
そして連載完結についてのコメントも、とても嬉しかったです!いつも元気をくださって、本当に本当に、リクエストもコメントもありがとうございました!
また遊びに来てくださいませ〜!