04
「おーい、ただいま〜」
新幹線での長い道のりを経て、電車へ乗り換え、最寄りの駅から田舎道を徒歩十数分。
そんなところにある我が実家へ、久しぶりの帰省。
「はーい、あ、おかえ、………え、名前、あんた、そちらの方は、…も、もしかして!」
「あ、あのねお母さん、この人は、……」
「ちょっとお父さん!名前が彼氏連れて来てるんだけど!!」
「なんだって?!聞いて無いんですけど?!お父さんこれっぽっちも聞いてないんですけど?!」
「いや!ちょっ!人の話聞いてええ!!彼氏とかそういうんじゃ無いからああ!説明するからああ!!」
出迎えて、玄関の扉を開けてくれた母は、我愛羅君を見るなり盛大な勘違いをしてお父さんを呼んだ。
バタバタと奥から出て来た父は相変わらず声がでかい。
そんな二人に突っ込んで、ため息を漏らしつつ、自分の家のようにズカズカと足を踏み入れた。
あ、よく考えれば自分の家だ。
「…邪魔をする」
靴を脱ぎ捨て、当たり前のように上り込む私に続いて、丁寧に私の両親へと頭を下げたあと、我愛羅君も靴を脱いで上がってくる。
そんな我愛羅君を見て両親二人は何やらこそこそ話していた。
…何を言ってるのかは知らないが、やめてくれ。マジで。
久しぶりに帰って来た実家は、いつも通り何も変わってはいなくて、机や椅子の位置も、テレビの位置も、その傍らに置いてある私の幼い頃の写真も、何も変わっていなかった。
親とは何故子供の幼い頃の写真、しかも時系列に習ってテレビ台の上に飾るんだろうか。
幼少期の写真だけならともかく、中学校や高校の時、大学の入学式の写真まで飾るのは、恥ずかしすぎるからやめてほしい。
「それで、突然帰ってくるなんて珍しいんだけど、何かあったの?」
「ああ、えと、ちょっと話すと長くなるんだけどさ」
「……え〜、長くなるの?」
「娘の話くらい長くても聞けよ。そしてニヤニヤするな」
居間にて机を私、我愛羅君。対面して母、父の四人で囲む。
明らかにニヤニヤとしている我が両親は、きっとまだ我愛羅君と私が恋人であると踏んでいるからに違いない。
説明すると長くなるという私の言葉に、腹の立つ返しをして来たところで私はツッコミを入れてしまうが、横にいる我愛羅君が何かを話そうと身じろぎをしたのに気づき、三人ともでそれを待った。
「…良ければ俺が説明をさせていただこう。……まずは父上、母上、俺は砂隠れの里の風影、我愛羅と申します」
「っ!!ちょ、我愛羅君、それは唐突すぎ、」
話には順序ってもんがあるでしょーよ…!と、我愛羅君に言うものの、名乗らねば失礼だろうと返された。…いや、確かにそうだけどさ。
被っていた帽子をス、と取りながら名乗った我愛羅君に、私の両親は石像のように固まっている。
「ちょ、お母さん、お父さん?時空が止まってるけど大丈、……」
「…ね、ねえ!ちょっと聞いた?!お父さん!!私母上って呼ばれたんだけど!!」
「お、俺だって父上だぞ!!父上って!!何この高ぶる感じ!!」
「…え、……」
いや……
こうなる事は分かっていた。…分かっていたんだ。
我愛羅君は絶対父上とか母上とか呼ぶんだろうと、そして呼ばれた私の両親は心底テンションが上がるって事くらい…分かってたのに。
何この高ぶる感じ!!とか、こっちが聞きたいよ。
相変わらずキャッキャとしている両親を尻目に、私は一人項垂れる。
だけどそんな空気を変えるように、我愛羅君が私との出会いや、自分が本の世界の住人である事、そして自分を受け入れてくれた私の、両親に礼を言いたくて今日ここまで出向いたという事を話し出すと、やっと落ち着きを取り戻してくれた。
「名前、あんたやるわね。結婚もしてないのに子育てなんて。さすが私の娘」
「いや、え?言いたい事そこ?信じられないとか、そういうのは無いの?」
「え〜?だって我愛羅君がそう言ってるんだから、そうなんじゃ無いの〜?疑う余地なーし。ね、お父さんもそうでしょ?」
「そうだな、…く、まさか愛読していたナルトの登場人物にこうして会えるとは…おい名前、こういう時はあれか?萌えと言えばいいのか?」
う、うぜえ…………。なんなんだこの親父は……。
我が父ながら顔面にパンチを食らわしたい程の嫌悪感がよぎったんだけど。
てかお父さんもナルト愛読してたのかよ!知らなかったんですけど!
でもまあ、我愛羅君の言っていた、私の両親に一言お礼が言いたいというミッションもクリアしたわけだし、私の両親もこんな感じだし、今日の夜はお母さんの手料理を食べて泊まってっちゃおうかな〜。一応泊まる用意はして来たし。なんて呑気に考えていると、我愛羅君が話はまだ終わっていないというような雰囲気を醸し出しながら、それと、と続けた。
「名前、お前にも、何も伝えてはいなかったが、…ここで、お前と、父上母上にどうしても伝えたい事がある」
「え、え?……なに?」
突然何を言い出すかと思えば、話の先が見えないくらい含んだ言い方で、私と、それから両親を見据える。
一体何を伝えたいというんだ。礼ならさっき言ったはず。
それ以外、何も思いつかない私は、真剣な面持ちの我愛羅君を横目で見ながら、先の言葉を待つ事しかできなかったが、次の瞬間、我愛羅君の言葉に私含め三人同時に目を剥くことになる。
「俺は、名前と…共に生きていきたいと思っている」