03

スと地面と平行に挙げられた腕に目がいく。
手のひらは広げられていて、私にはよく知る光景だった。この後開かれた手のひらは拳に変わり私を包んでいる砂は一気に私を圧しバラバラにするんだろう。
砂瀑葬送って言うつもりなんだろう。

そんな事させてたまるか。ここは私の部屋なんだぞ!そして死んでたまるか!


「ちょ、と!待った!」


息が詰まるのを我慢し喉の力を振り絞って声を上げる。
初めてまともに喋った標的が気になったのか、持ち上げていた腕を降ろした。
それを確認して更に喋る。賭けだけど……、


「き、君は、私を殺したら、大変な事になるよ!」


「……」



本当に大変なことになる。これはマジだ。大マジだ。もし私を殺して一人で外へでも出たら…。
この世界は我愛羅が居た世界じゃない。忍なんていないし、助けてくれる人なんていないだろう。追いかけられ隠れながら、帰る方法を一人で見つけなければ我愛羅の身に保証なんてない。
砂の盾があるから、殺されこそしないだろうが生きていくのに必須条件である食事なんてのはまあ無理だろう。


「どうして大変な事になるのかはちゃんと説明するから、とりあえず、降ろしてくれない?…私、君に何もしないよ?」


丸腰だしね?ね?信じて?と最後の方は落ち着いて言ってみる。これで駄目ならもうどうすればいいか分からない。
降ろして貰って、一緒に家の外へ出ることが出来れば、我愛羅は自分が違う世界へ来てしまったとそう思ってくれるに違いない。
だからこそ砂を解いてほしい。
解いてくれなきゃ始まらない。


「…嘘を、つくな、信じても裏切るんだ」

「うっ、く…、うあ」


だめだ、死ぬ。
さっきより圧迫感が強くなりいよいよ駄目かと思いながら苦し紛れに我愛羅を見ると彼もまた苦しんでいるような表情をしていた。
悩んで悩んで、苦しいのか。今までそうだったのね。
そんな顔されたら今すぐ抱きしめてあげたい。
私は味方なんだよ、と。


「うう、あ…、簡単に、人を殺し、ちゃ、ダメだよ……っ、私、は君の…味方、だよ」

「っ!……ぅ、」


どの言葉に反応したのかは分からないが、頭を抱え唸りだす我愛羅。それに伴い私を包んでいた砂がサラサラと崩れだし難を逃れた。

ううう、と唸り続ける目の前の少年に、苦しみから逃れたばかりで呼吸がうまくできず今にも瞼が閉じてしまいそうになるが、気を失う訳には絶対にいかない。
膝をつき震える手を、砂よガードしてくれるなと願いながらその赤い髪に伸ばし抱きしめる。


「!!、やめ、……っはな、せ」

「なんで、離さないよ。落ち着くまでこうしてる」


離せといいつつ、身じろぎもしない彼はそんなに心が苦しいのだろうか。
一刻前まで殺そうとした見知らぬ女に私は味方だと抱きしめられ、信用するしないで葛藤しているんだろうか。
相変わらず唸り続ける彼の髪を撫でる。
さっきまでは恐怖しかなかったが、今となっては怖いなんて感情は無くただただ少年をあやす。
本当は素直で、ナルトの事が大好きで、里の為に頑張れる良い子だと私は知ってる。
だからこそ、今腕の中で苦しんでいるこの少年を助けてあげたい。
帰れるまで、いつまでもウチに居てくれていいんだよ。



「お前は、俺の事が怖く、ないのか」


腕の中の震えが少し治ったと思ったら突然の質問。
怖かったら逃げてるよ。と、笑いながら言うと、そうか。と一言。

よしよし、落ちついたんだな。会話のキャッチボールもできるし、一時はどうなる事かと思ったが、話くらいは聞いてもらえそうだと心底安心。

…ああ、今更だけどやっぱり可愛いなこの狸は。無表情すぎるけど。
これからとりあえずここに住むでしょ、そしたらご飯も一緒に食べて、同じ布団に入って。
お……、お風呂も、、デヘデヘ。



「おい、」

「!!っん?!べ、別にお風呂一緒にとか考えてないよ?!!違うよ?!違うからね?!」

「……」