腹の虫が鳴き止まない
「ごちそーさん!また来るよ!」
「はーい、ありがとうございましたー」
最後のお客が帰ってから時計を見ると、閉店時間から少し針が進んでいる。
まったく、幾らお客だとはいえ閉店時間過ぎてまで飲んで食ってしてんじゃねーよ。
気使えよな、私だって早く店閉めて帰りたいんだよ。
「…ま、でも今日は早い方かな」
先程帰ったお客が居たカウンター席を片付けるでもなく、店の暖簾を仕舞いに外へ出る。
はあ、と意識もしないで出る溜息をそのままにしてから、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
私が一人で切り盛りしているこの小さい小料理屋は、昔両親が夫婦で営んでいた店だけど、その両親はもうずっと前に忍者に殺された。
そのせいでずっと閉店状態が続いたが、幼かった私はこの店を復活させるべく料理を勉強。何年も経ってやっと一人で営業できるまでになった。
そしてまた数年が経ち、今では忙しい日々に追われている。
「…失礼、まだ営業はしているか」
「え、」
まだ煙草を半分も吸っていない時、突然声をかけられ、聞こえた方へと振り向いた。
そこには赤毛と金髪の二人組。
赤毛の方は無表情で、金髪の方は何やら困ったような笑顔をこちらへ向けていた。
しまった、先に暖簾だけでも降ろしておくんだった。
だが閉店時間はとうに過ぎている。煙草を吸い終わってから店の片付けをする手筈だったので、これはスッパリ断ろうと思い、肺まで吸い込んだ煙を一度吐き出してから二人組に向き直った。
「すいませんけど、もう終わっ、……」
ぐうううううううう…
「…」
「…」
「っい、いやあ、すまねえ、俺ってば今日朝から何も食ってねえんだった、」
もう終わってるんで、の台詞を言おうとした瞬間、誰かの腹の虫が盛大に鳴いて、その後直ぐに金髪の方が自白めいた事を言った。
朝から何も食べてないって、もう夜もいい時間なんだけど。
食欲に疎いのか、はたまた食事を取る時間が無い程忙しい人なのかは知らないが、困った様に笑うその金髪に、気付けば軽くでいいなら食事していきますかと声をかけていた。
「……良いのか、さっき閉店したと言いかけただろう」
「いや、あんな大きい虫の声聞いたら無視できないでしょ。まあもう閉める所だったんで軽くしか出せないですけど、それで良ければどーぞ」
私が言おうとしていた事を理解していたんだろう赤毛が、申し訳無さそうに聞いてくる。
まあ、正直早く閉めて自分も夕飯を食べて、風呂にでも入ってさっさと寝たいと思うが、余った食材も綺麗に使い切ってやろうという考えも浮かんで、オッケーした。
それにやっぱり、めちゃくちゃ腹が減っている人を目の当たりにしたにも関わらず追い返すのはなんとなく気分が優れない。
所謂仕方なくというやつだ。
もしこの二人がタチの悪い酔っ払いで二軒目を探してる、とかなら追い返すけど。
そんな事も無さそうだし、害はないだろう。
軽くでも良いってばよ!と最早何でも良いから食わせてくれと懇願している様な面持ちで言う金髪に、じゃあどうぞと店内を指差し入るよう言った。
「すまないな、また何か礼でもするとしよう」
「え、いやそんなのいいですって。ほら、先入って好きなとこに座っててくださいよ。私これ吸い終わってから行くんで」
金髪がはしゃぎながら店内へと入って行った後、赤毛の方が少し頭を下げてくるので、そんなのいいから早く行けと言うと大人しく店内へ入って行った。
それを確認してから、早々に煙草を灰皿へと押し込み、暖簾だけ降ろして私も店内へと入った。