明日は大事な日、らしいです
一先ず、最後に帰ったお客の食器やらを片付けながら、二人に飲み物は?と聞くと、金髪は何やら嬉しそうに酒飲んでもいいかな?と赤毛に言っている。
赤毛はというと少し難しい顔をしたと思ったら、少しであれば大丈夫だろうと金髪に言って、その後私の方を向いて酒の種類を聞いてきた。
「ビールでも焼酎でも、一応出せますけど。あ、お洒落なカクテルとかはありません」
「ん!ならビールにするってばよ!」
「では俺は焼酎を、」
麦ですか芋ですか、それとも黒糖とか、サツマイモなんてのもありますけど。
纏めた食器を流しに持って行きながら、焼酎をと言った赤毛に種類と飲み方を聞いて、それらを用意するが、金髪の方にはビールを出さず、お茶を差し出す。
「焼酎、と、あなたは何か少しでも食べてからビール飲んでください。それまではお茶です」
「んん?なんでだ?」
出されたお茶と私の顔を交互にマジマジと見つめ、私が言った言葉の意図を探っている様だが結局分からないようなので説明をする事にした。
「さっき朝から何も食べてないって言ってたので。何も入ってない胃に突然アルコール入れるのは悪酔いの元ですよ。それに、あなたがお連れさんにお酒を飲んでも良いかと聞い時、お連れさん、ちょっと難しい顔して、少しなら良いだろうって言ってたんで。明日とかに何か大事な用事でもあるんじゃないかなって思いました。なので食事を先にしてからお酒飲んでください」
「…お、お前、すげーな!なんだよその洞察力!」
飲み物を席に置いてから厨房に戻り、料理に取り掛かりながら淡々と金髪に説明していく。
取り掛かりながらと言っても、この店は所謂回らないお寿司屋さんみたいな構造になっていて、大抵の料理はお客と会話しながら作れる。
淡々と説明し終えた後、金髪はスゲースゲーと、何が凄いのか分からないけどテンションが上がっている様で、赤毛の方は出された焼酎を少し飲んで薄っすらと笑顔を浮かべていた。
「飯屋ってのは客のそういう事も考えてんのかあ〜!」
「…いや、食事処全部がそういう訳じゃないと思いますけど」
料理を作る手は止めずそう言い返すと、金髪は目を細めながら、そうなのか?と聞いてくる。
いや普通お客が頼んだものと違う物を出すなんて店をやってる人からするとあり得ないでしょ。
ただ私は長い事小料理屋をやっていて、お酒を飲んで歯止めがきかなくなって泥酔しているお客が好きじゃない。泥酔するなら他の店でやってくれと思うのだ。
お客の健康とか、予定とか、そういうのを気にしてる訳ではないけど、飲みすぎて次の日の用事が二日酔いで上手くいかなかったなんて話、聞きたくないだけ。
この店に来るお客はそういう話を結構してくるから。私がなんとなく気付いたらそういう人のストッパーみたいな役割になっているだけで。
良いのか悪いのか良く分かんないけど。
まあ、こんな事をこの二人に言う義理は無いので、頭にハテナマークを浮かべている金髪を適当にあしらい、一品目をカウンターに置いた。
「はい、とりあえず早く出せるものから出しますね」
「おおー!サンキュー!」
……
それからちょこちょこと料理を出し、金髪には最初に頼まれたビールをやっと提供。
赤毛は本日三杯目となる焼酎を、顔色ひとつ変えずに飲んでいる。この人はザルなのか。
「そういえばさ、今日ここに辿り着く前に結構里内ウロウロして飯食う所探したんだけどよー、どこも閉まってたんだってばよ。時間もすげー遅えって訳でもないと思うんだけど、いつもの事なのか?」
突然金髪がビールの所為で少し顔を赤らめながら質問してくる。
確かに、明日は朝からこの砂の里で忍五大国のトップ達による会議がある。
つまり影達が集まる五影会談だ。
一般人はその会議の前にある影達の演説を見たくて早く床に就く。
店をやっている人達はいつもより早く閉めて、明日の演説に備えているらしい。
砂の里ではこれが普通だと、お客から教えてもらった事を思い出す。
私はそんなの興味ないので、例に及ばずいつも通り営業していつも通りの閉店なんだけど。
他の里どころか、この里のトップである風影の顔も知らないし。
自分でも閉鎖的な生活してるなあと思うが、それはそれで別に構わない。
何も知らなそうな二人に、もしかして他里の人なのかなと思い、五影会談が明日あるから皆早く寝るんですよと答えた。
「会談前に五影が揃って、一般人に向けて演説とかしてるらしいです。それ見たさに早く寝てるんですよ。砂での会談なんて滅多にないし。まあ、風影様が喋ってるのを皆一番見たいんじゃないんですかね」
「へえ〜!そうなのか!、お前も見に行くのか?」
「いえ、行きません。…観に行かなくても聞こえて来ますし、」
そうだ。わざわざ見に行かなくても、ここまで聞こえてくる。意識的に聞こうとしなくても、聞こえてくるんだ。
それなのにわざわざ見に行く必要があるのか。
それに、本音は見に行かないのではなく、見に行きたくない。
いくら里を守ってくれている人だと言われても、両親を殺した忍と、違うと分かっていても結局忍という事には変わらないと、そう思ってしまってどうしても見る気になれない。
そんな事は勿論言わないけど。
「ふう〜ん?あ、ビールおかわり!」
「…あまり飲みすぎるなよ」
聞いて来たのは金髪なのに、まるで興味ないような振る舞いでビールおかわりと言われ、本日二杯目のビールを差し出す。
やっぱりこの二人は他里から来た人なんだろう。
会談の事を知らないって事はそれを見に来たって訳じゃなさそうなので、観光でもしに来たのか。
こんな砂漠地帯の何処に観光地があるというのか謎だけど。
「…お二人は観光で砂へ?」
「…」
「…」
「え、?」
あれ、なんだ、この沈黙は。
観光しに来たのかって聞いただけだよね?
でも気まずい空気っていうよりは、二人とも少し驚いているような表情で私を見てくるもんだから、さっきまでの会話の中にこの二人が何をしに砂の里までやって来たのかという情報があったかどうか、記憶を辿ってみるがそんなことを聞いた覚えはない。
あれ、聞き逃してた?