初めて見る顔
※リクエストのお話「彼女の側で」をお読みになってからの閲覧を推奨いたします。
※ヒロインが顕著に喫煙しております。ご注意願います。
無事に火影様も里に戻って来て、私も風影様に言いたい事が言えた。
風影様と話した後、ほとんど徹夜状態だった私は、安心したのか急激に眠くなり、風影様がいたのにも関わらず気づけば寝てしまっていた。
目が覚めた頃には、時計の針は真上を差していて、窓の外は昨日の慌ただしい雰囲気が嘘の様に穏やかな空気が流れていた。
この病室も、陽の光が沢山差し込んでいて、まるで春の陽気が訪れた様に暖かい。
上半身を起こして、グっと両腕を天に向かって上げると、ずっと横になっていたせいで固まっていた身体が柔らかく伸びる。
それと同時に、少しだけ片足に痛みが走った。
私が負ってしまった怪我は主に頭と足で。
頭の方は強く打ったみたいだけど、もう既に問題無しと私が寝ている間にでも判断されたのか、包帯は無くなっていた。
足は、治療と痛み止めのおかげか昨日感じた刺す様な痛みはないに等しいが、やはりまだ動かすばジワリと痛みが走るし、杖をつかないと歩けない状態で、きっとまだここに入院しないといけないんだろう。
「入院かあ、」
まだそうと決まった訳じゃない。
もしかしたら直ぐにでも砂隠れへ帰ってもいいよと言われるかもしれないが、少なくとも何日かは此処へ居ないといけないだろうと考えるとため息が出る。
はあ、と行き場のないため息を盛大に吐いた所で、ふと、ある欲求が頭をよぎった。
「あ、煙草……」
吸いたい。
そういえば昨日の中忍試験から吸っていない。
やめようと思ってもやめられない喫煙の事を考えて、吸いたい欲がどんどん大きくなる。
一日の間には必ず吸っていたのに、気を失っていたのもあるが丸一日程手を付けていないなんて、そんなの余計に吸いたくなると思いつつ、辺りを見渡せば少し汚れた自分の持ち物。
微かに痛む足を庇いながら見つけた鞄を漁ってみれば、予想通り目当ての物が入っていた。
「足折ってるだけだし……いいよね、吸っても」
器官とか、内臓とか、体の内部を怪我しているなら怒られるだろうけど、足を骨折してるだけならと、煙草を手に持ってみる。
喫煙者は、煙草に関しては基本的に我慢が出来ないもので、吸いたいと思ったら吸うまで煙草の事を考えてしまうものだ。
「よいしょ、と……痛っつ」
だめだな〜私、なんて思いつつもベッドから這い出て、看護師さんが持ってきてくれていた松葉杖を取って病室を出る。
廊下を左右に見回して、誰もいない事を確認。
別に悪い事をしようと出て行く訳じゃ無いんだけど、一応入院している身としては"身体には悪い事"をしに行くので罪悪感からの行動だった。
側から見れば怪しすぎるよね。
まあそんな事は気にならないけど、と半ば開き直りながら廊下を進み、受付で喫煙所の場所をそれとなく聞いてから、外にあるらしい喫煙所へ向かった。
……
ふう、と白い煙を肺で一周させてから吐き出す。
ベンチに腰掛けて、真上を向きながら吐き出した後、染みる〜と小さく呟いた。
女らしからぬこんな姿、知り合いには見られたくないなと思う反面、別に良いかとも思う。
ポカポカ陽気の中で良い気分になりながら、約一日ぶりの煙を、吸って吐く行為を繰り返し、あっという間に吸い殻になってしまった煙草を灰皿に押し付ける。
病院にまで喫煙所があるなんて有り難い。外だけど。
そんな事を思いながらもう一本を取り出し、火を点けようと少し俯いた所で、私を照らす暖かい太陽の光が遮られた。
「……怪我人がそんな事してて良いのか」
「え、」
突然影と共に声を掛けられて、顔を上げれば見覚えのある顔。
「久しぶりじゃん」
「カ、カンクロウ、さん」
既に私がしている事はバレてしまっているだろうが、口に咥えていた二本目の煙草に火がつく事は無くて、苦笑いと共にスっと箱に戻した。
「す、すみません、」
「いや、別に責めてる訳じゃねえよ。まあ俺は好きにすりゃ良いと思うが、我愛羅が見たら何言われるか分かんねえじゃん」
「う…で、ですよね……煙草吸う女とか、」
ドカッと私の横に腰を下ろしながら話すカンクロウさんの言葉がグサリと私の胸に突き刺さる。
出会った時こそ、風影様の事をなんとも思っていなかった私は横で普通に喫煙をしていたけど、やっぱりそんな女は嫌なもんかと、カンクロウさん言われて少し落ち込んでしまった。
「いやいや、そうじゃねえよ。あいつ、結構過保護なとこあるからなあ、怪我人がチョロチョロして一服してるとなりゃ、今すぐ病室に戻って寝てろとか、完治してからにしろとか言われるぜ」
「え?」
「随分心配してたみたいだからなあ、お前が運ばれてからずっとお前の病室にいたらしいじゃん」
「へ」
風影様が、ずっとって、それ本当なの。
私はなんだか面白そうにカカカと笑っているカンクロウさんとは反対に、私が運ばれてからずっと側にいたくれた風影様を想って唖然としてしまった。
「お、なんだよ。そんな顔して、嬉しいってか?お前もしかして我愛羅の、……」
「!!ち、違いますよ…!なんでそうなるんですか!」
「いやまだ何も言ってねえじゃん」
咄嗟にカンクロウさんが言おうとした事を予測して反論に出るが、どうやら墓穴を掘ってしまった様だった。
相変わらず面白そうに笑うカンクロウさんは「図星かよ」とかなんとか言っていて、一気に顔に熱が集中する。
「兄貴としちゃ独り身のあいつは見てらんねえからなあ。我愛羅の事よろしく頼むじゃん」
「い、いや、だからその、」
よろしく頼むとは、話が突飛しすぎてやいないか。
この人は、前も思ったけどやっぱり人の話を聞かないし、どんどん話を前に進めていく様だ。
そりゃ宜しくと言われれば宜しくしたいものだけど。いやそんな事私なんかが考えるだけで恐れ多い気が……。
フと「じゃ、そろそろ行くわ」なんて呟いて、私の隣から腰を上げたカンクロウさんに、「あ、」と咄嗟に言葉が出なかった。
「その足、完治したらまた飯でも作りに来てくれや」
「え、あの」
「じゃあな」
また飯でもって、そんな簡単な事みたいに言わないでくれと口にしようとしたが、それは結局言葉にはならず、ポケットに手を入れ去っていくカンクロウさんの背中を眺めるしかできなかった。
本当に何もかも自由すぎる人だと、そう思いもするが結局はまた風影様の為に食事を作れたら、とも思う。なんて現実味の無い。
お店には来てくれるって言ってたし、それで充分だと言い聞かせた。