04

「……あ、あの」

「なんだ」

「やっぱり、自分で……」

「逃げ出すだろう。だめだ」

「……」


私は今、風影様におぶられている。

背筋が凍るような思いをした瞬間、テマリさんとシカマルさんは何やら二人でコソコソと話して、「頑張れよ」と私の肩を叩いて行ってしまった。
一体何を頑張れというんだろうか。この、私が脱走してしまった事について怒っているんであろう風影という里のトップに君臨している人物を宥める事を頑張ればいいんだろうか。

いつもと変わらない無表情ぶりなのに、この溢れ出る怒りのようなオーラは一体なんなのか。
いつも無表情だけど、穏やかで怒りなんて言葉知らないんじゃないかというような人が、怒ると一番怖いという、迷信みたいなものを私は今日、痛感した気がした。

"病院に居るはずだが?"と、尤もな事を言われ、(怖すぎて)言葉が出なかった私に、突然背中を向けた風影様は、そのまま少し膝を折り「乗れ」と一言。
そのあと、突然の事に「え、え?」と慌てる私に、留めの「お前に拒否権があると思うか?」という、もう背中に乗るしかないじゃないかというような言葉を突きつけられ、渋々風影様の肩に手をかけたんだった。

「……」

「……」

病院までってこんなに長い道のりだったっけと思うほど、この沈黙の所為で時間が長く感じられる。
拒否権はないと言われて、思わず背中に乗った訳だけど、乗ってすぐに自分が今とんでもない状況下に置かれて居る事に気づいて心臓がうるさい。

自分の心臓の音が、まるで耳元でなっているみたいで、風影様に聞こえてしまうんじゃないかと考えるが、考えれば考えるほど心臓は速さを増していく。
背負われているのがせめてもの救いだ。多分私、顔真っ赤だろうから。
そう思うと同時に、私のことを風影様は探してくれた訳だけども、恥ずかしげもなく背負えるということは、私はなんとも思われていないんだろうと、少し悲しくなった。

でもそんな事より、まず第一に言わなきゃいけないのは謝罪だ。
風影様の雰囲気に若干慄いてしまって謝罪の一つも言えていないとなると、呆れられてしまう。
そして私はまだ謝罪ができていない。言わなきゃ。


「か、風影様」

「…なんだ」

「あの……す、すみません…でした、」

意を決して言ってみるものの、尻すぼみになってしまった私の謝罪はなんとも心もとなくて。
何も返してこない風影様のうなじをただただ眺める事しかできなかった。


「……どれだけ心配したと思っている」

「へ、?」

突然聞こえた風影様の声に、視線をうなじから少し上げて赤い髪を見つめる。
ため息混じりに発せられた声は、さっきとは違って穏やかで、心底心配したという雰囲気がひしひしと伝わってきた。
それに余計、申し訳ない気持ちが覆いかぶさって私はまた「すみません」と謝罪を重ねた。



そこからはまた長い沈黙が続いて、気づけば病院の前まで来ていた。
私はそこで降ろされ、それと同時に松葉杖も渡される。
私を背負いながら杖も小脇に抱えていた風影様は多分疲れただろう。
「ここまでありがとうございました。ご迷惑をかけてすみませんでした」と、ほとんど消える様な声で今日で三回目の謝罪を口にし、杖をつきながら院内へと足を運ぼうとした。

「…名前」

唐突に、名前を呼ばれて風影様を仰ぎ見る。
まっすぐ目を合わせているのに、次の言葉がなかなか来ず、その沈黙に耐えられなくなった私はおもむろに「やっぱり、まだ怒ってますよね」と、視線を外しながら呟いた。
大人に怒られる子供かと自分でも思うくらいに今の自分が小さく感じられて、むやみに外へ出て、砂隠れの品位というか、そういうものも、もっと考えれば良かったと、そのまま風影様に言う。
粛々としていれば良かったと、それもまた続けて言った。


「…そんな事はどうでもいい」

「え、」

「お前がその怪我で、慣れない土地を出歩いたとして、また怪我でもしたらどうする」

「……へ?」


意外にも、砂の面子等を汚されて怒っているとか、そんな事は私の考えすぎだった様で、風影様から出て来た言葉は、ただ、普通に私を心配してくれていた様な言葉だった。
それを聞いて少なからずほっとしたと言うか、ただ心配してくれていた事にふつふつと喜びが湧き上がって来たんだが、一度開いた風影様の口は閉じる事を忘れてしまったかの様に、「こうなってしまったらどうする」「ああなってしまったらどうする」と、"もしも"を連発して来ていて。

流石の私も、いやいや、一応大人なんだし、そんなドジは踏まないよと言いたくなってしまい、思わず「流石にそんな事には…」と反論してしまった。

のが間違いだった。


「…そうか。お前は人の心配を素直に受け取れないらしい」

「え……え?」

反論してしまったが最後、風影様の雰囲気が、穏やかなものから何やら不穏なものへと変わった気がして、「あれ…?」と思った時には片方の杖を奪われ、更には杖を奪われた方の腕をガシリと掴まれて院内へ入り、私の病室に向かって歩き出した。


「以前お前は、流石にそんな事にはならないだろうという様な事をしたな」

「へ?…ちょっ、と、早、」

「木の葉へ来た際、雷車を逃して、泊まる金もなければ新たに雷車へ乗る金もない。そんな失態をするようなお前が、"流石にそんな事にはならない"と?」

「え、う…、そ、それは、」

私の腕を引っ張りながら、折れた足なんて御構い無しと言ったようにずんずん病室に向かって進む風影様。
しかも私にとってはかなり恥ずかしい過去の出来事まで話しながら進んでいくものだから、羞恥とスピードの速さに目が回りそうだ。
周りに誰もいなかったら、ごめんなさいと大声で叫びたい。
私たちの様子を見た看護師さんが、「風影様?!」と驚くが、そんな事にも御構い無しで、あっという間に私の病室へとたどり着いた。


静かに扉を開けて、部屋へと入りベッドへと座らされる。
松葉杖は完全に奪われた。


「……これは預かっておく。ここの者にも、これを与えるなと言っておこう」

「え、あ、あの、それが無いと私、…お、お手洗いにもいけな、」

「心配ない。お前には監視をつける。所用でこの部屋を出たくなったら監視に声をかければいい」

「え?!」

松葉杖をこれからお預けだと言われて、更に監視をつけるなんて、やっぱりいつも物静かな人を怒らせると恐ろしい……。
さっきの様子だと、私が風影様に口で勝てる事なんて無さそうだし、もう反論の余地がない。と言うかここまで来てまだ反論しようものなら何を言われるか分かったもんじゃないと、私は諦めた。そして反省した。


「…すみませんでした」

しゅん、と項垂れるようにして、俯きながら私の目の前に立っている風影様へ、色々な意味を込めて謝罪。
脱走して、背負ってもらって、探してもらって、反論して。
数え切れない程の迷惑を、たった半日程度でかけてしまってすみませんと、下げた頭が上がらない。

「……分かればいい。さっきのは冗談だ。これも、ここへ置いておく。頭を上げろ」

カタ、とベッド近くに立てかけられた松葉杖の音を聞きつつ、
先ほどのような、畳み掛けるみたいな話し方から一変、いつもの穏やかな口調に変わった風影様に、俯いていた頭をあげる。

そこには、つい昨夜にも見た、柔らかく微笑んだ風影様がいて、不意のその笑顔に思わず喉が鳴る。
ずるすぎる。その笑顔は。
さっきのは冗談、と言われた瞬間は「冗談かよ!」とか思ってしまったけど、もうそんな事どうでもいい。

「ずっとこの部屋に閉じこもっていては怪我こそしていても気が滅入るだろう。俺も木の葉に居られれば、お前の暇つぶしにいくらでも付き合うが…そうもいかなくてな。すまない」

「い、いえ!そんな事……」

突然の優しい言葉に頭がくらくらしてしまいそうだ。
風影様の言う、暇つぶしに付き合ってはもらえそうにないが、もうそんな事を言ってもらっただけで私の頭はお花畑。
それでも、明日の朝砂へ帰る予定だから、それまでは外をウロつくのではなく俺で我慢してくれと、私にとっては勿体無いくらいの言葉をくれて、自分の顔が赤くなっていないか心配になった。


足は相変わらず派手に動かすと痛いけど、怪我も脱走も、私からしてみれば結果オーライだ。
初めて怒ってる風影様を見れたし、こんなにも心配してくれていた事も凄く嬉しい。
まあ、もう怒らせたくはないけど。
そんな事を考えて、なんて不謹慎なと思われるかもしれないけど、今は許してほしい。

今日は良い日だ。



おわり


rice様リクエストで、ヒロインが木の葉病院、里に滞在中でのキャラとの絡みと言うお話でした!
大変お待たせしました…!
我愛羅くんを少し怒らせてみたかっただけのお話になった気がしますが…!
それにあまり多くのキャラと絡ませる事ができなったのが残念(というか代わり映えしないキャラたち)ですが、リクエストありがとうございました!