あの子は夜の隠し子

※五条目線



 特級術師かつ教師ということもあり、毎日忙しいが優秀な人材が育っていくのは楽しいもので充実した日々を送っていた。
 そんなとある日、自宅へ帰る途中あまりにも星が綺麗だったので珍しく足を止めて空を眺めていると高級マンションの最上階──の上、要は建物の屋上に人が立っていた。初めは己を基準に考えていたが、よくよく考えてみると普通ではない。運動神経の良さなのか、何かしらの術式なのかまではわからない。普段なら気にならない些細な事柄だったが、何故か気になってしまった。


「何してるの?」
 彼女の後ろに音を立てないように配慮し、声をかける。腰をかけて足をぶらぶらと動かしながら行き交う人を見ている彼女は僕の言葉に驚いた顔もせずこちらを向いた。
「強いて言うなら人間観察かな」
 夜だと星も綺麗なことが多いし。高い所から見るとキラキラしていて綺麗だと思わない?と笑う彼女は星の光も相まって目が離せない程綺麗だった。
「どうやってここまで来たの?」
「秘密」
 ニッと効果音がつきそうな笑顔で人差し指を口元に当てる姿は同じくらいの年齢だと思うのにどこか子供のようで、こちらまで口元が緩んでしまうのがわかる。


 それから何気ない会話をしていたが人通りが少なくなってきた頃、彼女は急に立ち上がって伸びをした。きっとそろそろ帰るのだろう。
「また会える?」
「縁があったらまた会えるんじゃない?」
 質問を質問で返す彼女にまた声を掛けようとしたところ、彼女は消えた。慌てて下を覗き込むも彼女の姿はなく、文字通りW消えたWのだ。

◆◇

 次の日もその次の日も彼女の姿はなく、長期予定だった出張をさっさと終わらせた今日は、前回彼女に会った時のような綺麗な星が広がる日で。前回と同じ場所にまた彼女がいた。
「縁があったね」
 同じようにまた彼女の背中に話しかけると僕の言葉に今度は一瞬驚いて、それから楽しそうに笑って「そうだね」と彼女は言った。


「貴方も不思議な力があるんだ?」
 珍しく彼女から話しかけられ、それも術式なんかを知らないような言葉に首を傾げる。
「……術師じゃない?」
「術師って?」
「あー……変な生き物見たことは?」
「変な? 特にないなぁ」
 僕の言葉に今度は彼女が首を傾げたので今度は「不思議な力があるの?」と聞いてみる。

「この前見たでしょ?」
 その言葉に前回消えたのはW不思議な力Wなのかと納得する。そんなことを考えていると「私ね、闇に紛れることが出来るの」と彼女は言葉を付け足して笑った。
「だから夜は大好きなの。何処にでも行ける気がするから」
「へぇ、すごい」
「ありがと。実際は何処へでも……は無理なんだけど」
 彼女の言葉と表情に違和感を覚えるが、流石に友達でも家族でも──ましてや恋人でもない己が聞いていい事ではないのだろう。


「昼はどうしてるの?」
「明るいのは苦手だし、寝てる事が多いかなぁ」
 僕の言葉に段々と表情が元に戻ってきているので少し安心する。
「僕さ、ここの最上階に住んでるんだよね。毎日ここに来るなら一緒に住む?」
「……それ、たった二回会ったことがあるだけの人間に言う?」
 彼女の言葉は尤もだと思う。普通の人間はそんなことはしない。ただ、僕は普通の人間ではない。
「盗られて困るものはないし、キミに僕は殺せないよ」
「いや、盗む気も殺す気もないけどさ。普通――いや、いいや。多分貴方もW特別な人Wなんだろうし。それならお言葉に甘えようかな」
 彼女が納得したので手を差し出す。僕の手を取った彼女の手をそのまま引いて己の方へ引き寄せて肩に担ぎ上げ、聞こえてくる文句を聞こえないフリして部屋へと向かった。
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