共同生活の始まり

 知らない人間と何度も会うのはこれで二回目だ。最初はそう――彼にとても似ていて、そして正反対のお兄さんだった。あのお兄さんもW特別な人Wだった。雰囲気もだし、隣に控えていた二人の少女の視線がそう物語っていた。
 今どうしているのかも知らない。生きているのか、死んでいるのかもわからない。私が知っているのはあのお兄さんと出会った場所と、それから時々見せる苦しそうな表情と貼り付けたような笑み――そしてお兄さんの名前だけだ。

◆◇

「……何もない」
 彼の部屋は高級感漂っていたが、まるでホテルのように生活感がなかった。それはいつでも出て行けるようにしている自分の様だと、何故か思ってしまった。
 W特別な人Wはどうして哀しい生き方をしているのだろうか。普通になれないのは仕方がないし、きっと彼らも普通を望んでいないのだろうけれど。周りを信用していないようでなんだか悲しいではないか、なんて一人思いに耽る。

「そういえば名前なんて言うの?」
 キョロキョロと視線を動かして部屋を物色していた私に質問が飛んでくる。その質問に簡潔に名前を伝えると「僕は五条悟」と彼も名乗ってきた。
 五条悟、と言う名前には聞き覚えがある。さて、どこで聞いた名前かと考えたがすぐに出てこないので諦めた。きっといつか思い出すだろう。

「それで、私はどこを使っていいの?」
「どこでも自分の家と同じように使っていいよ」
 本当にどこまでも予想外の返事をする人だと思いながらポカンとしていると「あ、でも飲み物と予備のレトルト食品はなくなったら足しといて」と告げられる。あまり家に帰るタイプの人間ではないのだろうかと彼の言葉から推測する。家にいる時間が短いのなら尚更、私みたいな他人を住まわせるのに普通は抵抗があるだろうに。

「彼女……は流石にいないと思うけど、」
 その先の言葉を告げようとして口を紡ぐ。自分が聞かれたくないことを他人に聞いてはいけない。答えてくれるかもしれないけれど、抉らなくていい傷を抉ってしまうかもしれないのはよく理解していた。所詮他人なのだ。きっと彼が飽きたらまた違う所へ住むことになるだろう。
「そういう人はいないから大丈夫。というか、いたら連れ込まないでしょ」
「それもそうか」
 ケラケラと楽しそうに笑う姿を見て胸を撫で下ろしながら調子を合わせる。この笑いが――彼の笑顔が本心ならいいのに。

「ご飯くらいなら作れるけど?」
「毎日帰れるわけじゃないから気にしなくていいよ。あ、連絡先教えといて」
「あー……ごめん。スマホの類を持ってない」
「……花子、修行僧か何か?」
「そんなわけない。ただ必要じゃなかっただけ」
 私の言葉に顎に指を添え考える仕草を取った彼は暫くそうしていたが、考えが纏まるとにっこりと効果音がつきそうな笑顔でこちらを向く。
「ちょうど明日は休みだし、一緒に買いに行こうか」
「お金かかるし、連絡するの五条さんだけだし要らなくない?」
「その五条さんって他人行儀だからやめてよ。悟でいい。あと、お金は気にしないでいいよ。僕お金持ってるから」
「……悟さんって人間の善意だけを信じてるの?」
「ん? 別に。嫌いな人間はいるし。――ただ、花子だったら裏切られてもいいかなって思っただけだよ」

 イケメンがそんな事を言って顔を赤らめない人はいるのだろうか。……少なくとも今私の顔は真っ赤だと思う。そんな私を揶揄うように「あれ? 照れてるの? かわいー」と言って顔を近づけてくる彼の身体を両手で押そうとしたがびくともしない。思ったより筋肉があるらしい。そのままペタペタと腹筋を触っていたら「花子やらしー」と言われたので止めた。
「話を戻すけど、私はここでニートしていいってこと?」
「うん」
「それは流石に悪いから何かさせて欲しいんだけど」
 私の言葉に彼は一瞬固まるが、すぐに「じゃあ僕の気が済むまでここから出て行かないで」と無邪気に笑うのだった。
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