三人だけの新入生
こちらで誰と一緒がいいと選べるといいが、そうはいかないのが世の常だ。まぁ、選べる程仲が良い人間なんていないのだけれど。
幸い、この春一級術師となった私は単独任務がメインで少し気が紛れる。だって、死ぬなら一人がいい。
「なんかイケメンが入学したらしいぜ」
「確か五条家の跡取りだろ?」
ざわざわと楽しそうな同級生の言葉に何処から情報を仕入れているのだと思いながら、今朝もらった次の任務の資料へ目を通す。簡単ではありそうだが呪霊の数が多くて面倒くさそうだと思いながらページを捲って──手が止まった。
「……は?」
「どうした?」
私の言葉にちょうど教室へ入ってきた教師が言葉を返したのでこれ幸いと資料を持って抗議に向かう。
「これ、今日の任務、単独じゃなくて一年と一緒って納得出来ません」
「一年? 五条か?」
同級生の野次にうるさいとだけ視線を向けると静かになった。これくらいで黙るのなら最初からそうしてればいいのに。
「お前なら問題ないだろ。足手まといにならないらしいし、勉強させてやれ」
教師の言葉にまだ抗議しようと思ったが、授業開始の鐘が鳴ったので資料を握りしめて大人しく席に着いた私は優等生だと思う。
◆◇
「……誰」
「それに詳細書いてたろ。一緒に行く一年だよ」
「夏油傑です。よろしくお願いします」
私が握りしめたせいでクシャクシャになった資料を指差した教師に続いて丁寧に頭を下げる一年に、こちらは名前だけの簡単すぎる自己紹介をする。
「じゃ、後は頼むわ」
そんなノリで生徒を送り込むなよと思うが、いつもの事なので今更気にしても仕方ない。夏油くんは初めてだったからか一瞬目を丸くしていたけど、すぐ無表情というか、薄く笑みを浮かべた表情へ戻っていた。大人だ。
「私は何をすればいいですか?」
口を開いた彼に資料を渡そうとしたが、同じものを持っているのを確認して自分の分はゴミ箱へと投げ入れる。
「『自分の身は自分で守って、死にそうになる前に逃げる』それが私を置き去りにすることになったとしても。それを守ってくれるなら自由にしていいよ」
「そんな、私も、」
「後輩を守るのが先輩の役目だし──そもそも私、弱くないから」
言葉を被せてにっこりと笑ってみせると彼も少しだけ笑った。
その言葉に嘘はないが、全てが本心でもない。だけどそんなことは彼には関係のないことだし、例え親友や家族だろうと全て本音で話す必要もないだろう。
そんなことを思いながら迎えに来た補助監督の車に乗って現場へ向かう途中で再度任務の詳細を伝えられるが全て頭に入っているので軽く聞き流す。
「着きました」
夏油くんが静かにしてくれていたおかげで少し眠れ、すっきりとした頭を回転させながら補助監督へお礼を伝えて建物の中へと入っていく。
「夏油くんは初めて?」
「任務としては初めてです」
「そっか。さっき言ったこと覚えてる?」
私の言葉を復唱したのを聞いて、大丈夫そうだなと懐から短刀を取り出す。「見ていてね」なんて先輩らしい言葉は吐かない。彼は全く緊張していなくて、その上こちらへの気遣いが出来るのだから私が何か言わなくても勝手に必要なものを吸収してくれる筈だ。
「それじゃあ、行こうか」
そう言って何度も何度も鏡で練習して数ミリ単位で調節出来るようになった作り笑顔を向ける。楽しくても怖くても辛くても、どんな時でも笑顔を向けられるように練習したのはいつだっただろうか。いつから完璧に笑顔を作れるようになったのだろうか。
そんなことをボケっと考えながら地面を蹴る直前、夏油くんが私を呼んだのでその場に留まって彼へと視線を向けた。
「死なないでくださいね」
彼の言葉に何と返せばいいのかわからなくて、咄嗟に曖昧に笑ってから今度はしっかりと地面を蹴った。