共同任務は後輩と

 次から次に湧いてくる呪霊を短刀に呪力を乗せて祓う。多少残ったとしてもあらかた傷をつけているので、これくらいなら夏油くんも怪我をしないで祓えるだろう。これならば術式を使う必要すらないと思いながら戦えるくらいには余裕だった。──おかしい。この程度なら三級術師でもいいはず。

「──っ、先輩!」
 夏油くんの言葉に後ろを振り返り、そして私は息を呑んだ。──気配が、なかった。
「手応えもなし、か」
 寸前で躱して短刀で反撃を加えた所で手応えがない。本体はコイツじゃない、若しくはそういう術式か……? と頭を捻った所で結論が出るわけでもなく、どうしたものかと考えていた時、夏油くんが動いたと思えば、夏油くんは呪霊を黒っぽい球へ変えるとそれを呑み込んだ。……飲み込めるんだ。呪霊、美味しくなさそうだけど。そう思いながらボケーっと見ていると「横からすみませんでした」と謝られた。
「いや、助かった。……ねぇ、呪霊、食べるの?」
「はい。取り込んだ呪霊を扱えるんです」
「成る程ね。変なこと聞くけど、美味しい……?」
「不味いですよ」
 オススメしませんなんて彼は笑うが、よくストレスにならないな。不味いものを飲み込んで、それを重ねないと彼は強くなれない……ということでしょう。そんなの、残酷ではないか。私だって血反吐を吐く努力はしたが、それは一時的な話だ。
 彼は生きている限り──呪術師でいる限りアレを取り込まないといけないのか。そう思うと何故か胸がチクリと痛んだ。

「山田さん、夏油さん、お疲れ様です」
 いつの間にか帳が上がっていて、話に夢中になっていた私達が車に向かわないからか、補助監督が走り寄って来たので現実へと意識が戻る。
「お疲れ様です。夏油くん、帰ろうか」
「はい」
 補助監督へ言葉を返して二人車へ乗り込む。そして高専まで私たちは言葉を交わさなかった。

◆◇

 無事に高専に戻り友達が迎えに来ていた夏油くんを見送ってから自室へ戻る。報告書の存在を伝えることを忘れたが、今から探しに行くのは憚れたので一人で報告書を記入した。彼に教えるのはまた今度でもいいし、任務に行く時に改めて説明があるだろう。あれだけの実力があるからきっとすぐ仕事を与えられるに違いない。
 呪術師は万年人手不足故に実力があれば学生だろうと駆り出される。だから今は束の間かもしれないが、幸せな楽しい時間をどうか享受して欲しい。


 書き上げた報告書を提出し終えてまた自室へと戻りベッドに飛び込む。ギシッと音が響くのと同時に包み込まれて眠りに落ちようとした時、ドアがノックされた。
 気付かないふりをして寝るのもいいが、急用だったら後から愚痴愚痴言われるので、重たい身体を起こして返事をしてからドアを開けると夏油くんが立っていた。
「あれ? 部屋教えたっけ」
「補助監督の方に聞きました。すみません、報告書があるとは知らなくて」
「私も教えるの忘れてたし大丈夫。でも次から頑張ってね」
「これ、お礼と言ってはなんですけど」
 話を終えて寝ようと思っていたのに、彼は「先輩、チョコレート好きだって聞いたんですけど、合ってますか?」と言いながら笑顔で有名店のチョコレートの袋を掲げた。
「好き、だけど、」
 報告書のお礼には豪華すぎる。そもそも、そこのチョコレートは別れてから今の時間までに手に入れられる代物ではないはずだと彼の目を見ると「友達が譲ってくれたんです」と言った。
「高級店のチョコレート譲るってどんな友達……ああ、あの≪五条家のご子息様≫?」
「それ、悟に言ったら殴られますよ」
 物騒な事を笑いながら言うなよと思いつつ、折角だから一緒に食べるかと聞くと頷かれたので部屋へと通す。
「綺麗……というか、物がないですね」
「いつ死ぬかわからないのに物があってもね」
 私の言葉に彼は何も返さなかった。
 私は私でお茶を淹れて彼へ差し出した。既に包装が解かれた箱に綺麗に陳列されているチョコレートを差し出してきた夏油くんが「お好きなのをどうぞ」というので、お言葉に甘えてひとつ指で摘んで口へ運ぶ。程よい甘さに思わず口元が緩むのが自分でもよくわかった。
「お気に召したみたいで嬉しいです」
「これ、嫌いな人いないでしょ」
 私の言葉に「どうでしょうね」と笑って夏油くんもチョコレートを口に運んでいた。

穏やかに時間が過ぎていき、チョコレートの箱を空にした時には既に外は暗くなっていた。
夏油くんはお行儀良く「お邪魔しました」とドアに手をかけ、開けようとした所でこちらへと振り返った。
「また遊びに来ていいですか?」
「大したものないけど、それでも良かったら」
私の言葉にお礼を言った彼は今度こそ部屋を出て行った。
さっきまで人がいたから余計静かに感じてしまうのはきっと気のせいではなくて、久しぶりに寂しいという感情が生まれたが、それを押し殺すようにまたベッドへ潜って目を閉じた。
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