それはまるで映画のような

ふわぁとあくびをひとつ。時計を見ると既に遅刻が確定している時間で、いっそサボろうかと思っていると携帯が鳴った。
電話は補助監督からで、ある二級術師が受け持った任務が失敗に終わったらしく後任をして欲しいとの事だった。面倒だなぁとも思ったが、授業をサボる口実が出来たとも考えて了承した。

校舎から出るとちょうど黒塗りの車が停まっていて、頭を下げてきた補助監督へこちらも頭を下げて中へと乗り込むと「任務の詳細です」と資料を渡されたので目を通す。一級の呪霊かと思っていたが、どうやら特級案件らしい。それを何故私に振られたのだろうかと補助監督の方を見ると苦笑いをされた。

「これ、特級って書かれてますけど」
「手が空いている特級術師がいなくて」

それはそうだ。元々少ない特級――しかも彼女は連絡があまり取れないときている。そうなれば一級であろうと駆り出されるのは必須というべきか。
ただ、納得いかないのは

「なんでコレ一人で行くことになったんですか」

そう。合同任務という手もあるのだ。それなのに、何故。

「今呪霊が各地で大量に出ていて……その……」

(人手不足に拍車がかかってる、ってことか)
悩んだところで仕方ない。私がやらなければ誰かが死ぬのだ。それならやるしかないだろうと思いながら車の中から見た景色はやけに荒んで見えた。



補助監督が帳を下ろしたのを確認してからコツコツと足音を立てながら病院の中を歩く。既に廃墟に近い状態になっているこの場所は、戦争が起こっていた時代から長い間活躍していたそうだ。それがもっと立地の良い場所へ移動するということでそのまま残された。

人の思いが集まるところには呪いが発生しやすい。

何度と何度も聞いた言葉だ。
そう、ここにはたくさんの呪いがある。基本的には無視してもよさそうなものばかりだが、特級が出たから重い腰を上げたのだろうか。何にせよ、

「面倒だな……」

私が入ってきたのはバレている筈。重苦しい空気が辺り一面漂っているのは理解しているし、身体もしっかり反応して手汗が止まらない。手袋をしていなかったらきっと、ナイフを落としていただろう。
まぁ、ナイフはあってもなくてもいいのだけれど。ないよりはある方が良い。なんかこう、人体が溶ける光線出してくる呪霊がいた時に便利だし。
そういえば、そんな話を以前夏油くんにした気がする。それで「先輩、SF映画の見過ぎです」って笑われたっけ。……懐かしい。まだそれ程時間が経っていない筈なのに、そう感じてしまうのは何故だろうか。
そんなことを考えて集中していないことがバレたのか――いや、相手は呪霊だからそんな感情持ち合わせていないだろうし、単に呪霊が認知できる場所まで来たからか攻撃が飛んできた。
それを受け流して懐まで一気に距離を詰め、持っていたナイフを刺そうとするが何故かナイフが貫通――というか、スライムのようにドロドロしていて刺せなかった上に腕が手首から先が抜けなくなってしまって、呪霊へ視線を向けるとニッと笑われた気がした。
(まずい)
幸か不幸か私の直感は外れたことがない。術式を発動させるより少し、ほんの少し前に腕が抜けたと思ったら自分の脇腹を呪霊の腕が掠めて、ほんの少し掠れただけだと思っていたのに血が止まらなくなった。
(おかしい。まるで遊ばれているような)
そこまで考えたところで貧血に陥ったのか意識が遠のく。慌てて足に力を入れるが、血が抜け過ぎたらしく視界がクラクラしている。

「――ぱい、先輩っ」

声が聞こえた気がして振り返るとそこには夏油くんがいて、私の姿と呪霊を交互に見て額に青筋を立てている――気がした。

「ここで待っていてください。すぐ終わらせます」

ふわりと身体が浮いたかと思うと次の瞬間には呪霊から距離を取った位置へと移動していて、身体の自由がきかなくなった私を優しく地面に座らせてくれる。
絞り出すようにお礼を言うとどこか悲しそうな、怒っているような表情をしてから彼は呪霊へと向かって行った。
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