避けてもいいことはないと知る日
自覚した気持ちにしっかり蓋をするのにちょうど良くて、届かないメールに安堵した。──まあ、メールが届いていないか毎日見ている時点で意識していると言っているようなものだけれど。
どうしたものかとぼんやり天井を見る。ふわふわと言い難いこのベッドを買い替えると気分が晴れるだろうか。
寮を出る方がいいのだろうか。
いっそ、携帯を捨ててしまおうか──そう考えたところで携帯が震える。メールかと思い反応せずにいたが、長く震えているので通知を見ると<着信:夏油傑>と今見たくない名前が表示されていた。
出ようか迷っていると携帯が止まり<不在着信:1件>という表示になる。
かけ直した方がいいだろうか。……でも、と考えていたが明日も早いので朝起きて考えようと布団に潜ったら勢いよくドアが開いた──というより、大きな音を立てて壊れた。
「え」
ドアってこんなに簡単に壊れても良いものなのだろうか。ぼんやりとドアの方を見ていると申し訳なさそうに眉を下げた夏油くんが見えたので手招きをする。
「すみません」
「いいよ。老朽化が進んでたんだろうし」
そんなことはないだろうし、きっと明日怒られると思うが、今は彼が優先だ。
こちらへ来て私の前にちょこんと座った彼の頭をよしよしと撫でるとまた一層しゅんとした──気がした。きっと犬だったら耳と尻尾をぺたんとしているだろう。
「私こそすぐ電話に出れなくてごめんね」
何の用だったのかを聞きながらベッドへ腰掛けて隣をポンポンと叩くと夏油くんは素直に隣へ座った。
「最近話せてなかったので、声が聞きたくて。──出なかったのは体調が悪くなったんじゃないかと思ったら無意識のうちにドアを壊してました」
無意識下でドア壊せるって凄くないかなんて言葉を言える筈もなく、私は夏油くんの頭をまた撫でた。というか、彼は電話をかけたら出るものだと思っているのだろうか。すぐに電話に任務が入っているとかシャワーを浴びているという可能性もあると考えて欲しい気もする。
「先輩、あの、」
「ん?」
「迷惑……ではないですか?」
何がと聞く必要はないだろう。だって彼の目はしっかり私を見据えている。
「迷惑じゃないよ」
私の言葉に安堵する夏油くんを見て私も胸を撫で下ろす。そして現実に戻るのだ。
「……今日どこで寝よう」
ここで寝ても良いものだろうか。ドアがないということはプライバシーも何もないようなものではある……が、元々見られて困るものはない。
「私の部屋に来ますか?」
強いて言うなら着替えるのに困るくらいだろうかと考えていると、夏油くんが爆弾を落としてきた。
「いや、それは流石にまずいでしょ」
「でもこのままじゃ不便でしょう? 私の不手際ですし。手は──出さないので」
「手を出す出さないの問題じゃ……」
諭そうと口を開いたが、途中で夜蛾先生が来たのが見えて私は口を閉じた。
「夏油……何をしている?」
明らかに怒っているとわかる先生に夏油くんは謝罪をし、自分の部屋へ連れて行くと言い張る夏油くんは夜蛾先生に雷と拳骨を落とされていた。一方私はドアが元に戻るまで最低限の荷物(とはいっても元々あるのが最低限だが)と共に空いた部屋に移ることになったのだった。