毎日の日課
教室に入る前に恵くんの部屋の前を通るのが日課になってどれくらい経っただろう。
始まりは多分、私の告白だったはずだ。五条先生に連れられてちょこちょこ遊びに来ていた彼が気になっていて、高専に入って少しした時に玉砕覚悟で告白したらOKが貰えたのだ。
たまに話しかけていたのが良かったのだろうか。それなりに告白された事はあるが美人の部類には入らないし、ここには真希ちゃんという美人がいるから恐らく顔ではないはずだから少しだけ気になる。
「おはようございます」
未だに敬語を使われるけど、無愛想ではなくなったから一歩前進している筈だ。
私達は毎日挨拶をするだけで一緒に教室へ向かう事はしない。別に二人で決めたことではないし、そもそも毎朝こうして恵くんの部屋の前を通るのは私が勝手に始めたことだ。彼からしたら鬱陶しいかもしれないけど、任務でいない日を除いて毎日顔合わせると一日頑張る気力が湧くし、拒否されたわけではないからこうして通っている。
「毎日毎日飽きねぇな」
「飽きる日なんて来ないと思う」
「はいはい」
途中で合流した真希ちゃんは呆れた様にそんな事を言うが、本当に私が飽きる日は来ないと思う。それより先に恵くんからうざがられて別れを告げられそうだ。
「で、キスのひとつくらいしたのかよ?」
「──っ、真希ちゃんのすけべ!」
肩を組まれて揶揄う様に言われた言葉に赤面する。キスをした事はないし、そもそもまだ手を握ったこともデートらしいデートをしたこともない。だけど、いつかは、なんて思っているのは事実だから不意にそんなことを言われると焦ってしまう。
「もしかして、まだ……?」
そんな訳ないよなと言われるのを否定しないでいたら驚かれた。
「恵、おまえ、」
恵くんに何か言いそうになった真希ちゃんの腕を掴んで教室へとぐんぐん歩く。だって周りが何か言う事で恵くんの気が変わったら嫌じゃない。折角付き合えたんだから穏便にいきたい。何もなく長く付き合いたい訳ではないけど、少しでも特別な立ち位置にいたいのだ。
「いや、流石に付き合ってるのに手も繋いでないのはなくねぇか? 小学生かよ」
「お互い任務とか授業で忙しいし、付き合ってるって大っぴらに言ってる訳でもないから……」
「大っぴらにしちまえば楽だろ」
「楽、なのかなぁ。恵くんが嫌がりそうな事はしたくない」
「嫌がるなら付き合ってないだろ」
真希ちゃんの言葉は一般論であれば正論だが、今回はあの恵くんだ。空気を読んで告白を受けた可能性だって十分考えられるのだと伝えると「ねぇよ」と返ってくる。何でそう言い切れるのだろう。私は不安で仕方ないのに。
「周りのことはしっかり見てるのに自分のことになると極端に視野が狭くなるの、癖か?」
「そう、だね。どうにかしたいんだけど、なかなか」
「少しずつでも改善しねぇと大切なもん失うぞ」
真希ちゃんの言葉が刺さるのは私自身その事を理解しているからだろう。だけど、どうにも出来なくてきっと今日ももがくのだ。