恋だと認めたくない

「あ、お兄さん! ねぇ、名前なんて言うの?」
「……は?」

 いつも高田ちゃんのいる現場で見る少し厳つくて、でも高田ちゃんの前ではコロコロと表情の変わる不思議な人が自分の通っている所へ来るとは思わず、見かけた瞬間走り出して追いついてシャツを思い切り引っ張ると驚かれてしまった。確かに、知らない人間がいきなり現れて名前教えろだなんて驚かないわけないよなと思いながら伏黒君にちょっかい出している所で申し訳ないけれど、といつも高田ちゃんの現場にいるけど好きなのかと問いかけ、私も高田ちゃんのファンなのだということといつも見かけていたということを伝えると一気に表情が変わった。そして高田ちゃんの素敵な所を矢継ぎ早に伝えられた。
 うん、わかる。わかるよその気持ち。同志に会えるって嬉しいよねとうんうんと聞いているとがしっと手を握られ思わずドキッとしてしまった。おかしい。生まれてこの方高田ちゃん以外の人間にときめいたことなんてなかったのに。

「よし、今夜は語らおう!」
「いいねー! あ、明日のライブ行く?」
「もちろん! 握手会にも参加する」
「流石だねぇ。そういえばこの間の……」

 話しても話しても話題が尽きず、楽しい時間を過ごしていたがどうやらそれも終わりらしい。引き摺られるようにして帰っていく姿に手を振って「また明日」と伝える。
 姿が見えなくなるまで見送った後、私も自分の部屋に帰ろうとした時にスマホの通知音が鳴った。

「ふふ、やっぱりいい人」

 先程連絡先の交換をした東堂くんが連絡をくれた。見た目によらず本当に丁寧な人だ。
 明日もきっと楽しくなる気がしながら返事をして部屋に帰ってお風呂に入ってからその日は眠りについた。

 ◆

 いつも通りオシャレをして目指すのは高田ちゃんのライブ会場だ。
 無事に着いて、いつもなら運営さんのアナウンスがあるまでスマホでゲームをしているのだが今回は何故か東堂くんを探している。あの身長と体格だ、すぐに見つけられるだろうと思っていた通りすぐ見つけられた。が、彼があまりにも待ち遠しそうな……強いて言うなら恋人を待つ時のような表情をしていたのでその場から動けなかった。声をかけることも連絡をすることも出来ないまま運営さんのアナウンスを待った。

 無事にライブも終わり握手会の列に並んでいた時にまた東堂くんを見つけた。本当に見つけやすいなと思っていたら隣に女の人がいた。確か真希さんのお姉さんだった気がする。もしかして今日はデートだったのだろうか。それなら話しかけなくて良かったと思いつつ胸がちくりと痛む。何で、どうして昨日初めて話した人に対してこんな気持ちになるんだろう。なんで、彼の笑顔を思い出してしまうんだろう。
 おかげで大好きな高田ちゃんと笑顔で会話が弾むこともなく、心配されて握手会を終えてしまった。
 きっと、初めての同志だったから勘違いしているだけだ。私は誰も好きにならない。だって明日死ぬかもしれないし今日死ぬかもしれない。そんな時に恋愛なんて出来るはずない。
 そう自分に言い聞かせるようにして、私に気付いて手を振ってくれた東堂くんに作り笑いで手を振りかえしてからすぐに背を向けた。
prev | next
|| top