君を守りたい
平凡とか平均を知らない。
生まれた時からトクベツでそれが当たり前だった。自分の意見が通らないなんて事は基本的になかったし、望んだものは手に入れてきた。
そんな僕が手に入れたいと思って未だ手に入れる事が出来ていないのは、平均そのものを歩んでいる女――彼女ただ一人だけ。
彼女曰く「自分に靡かないから気になるだけで私に代わる人はいくらでもいますよ」だそうだ。
それでも手に入れたいのだから「これが好きという事だろう?」と彼女に伝えても、彼女は少し寂しそうな顔をして曖昧に微笑むだけだった。
◆◇
「……は?」
任務を終えのんびり歩こうと伊地知に一言伝えて慌てる伊地知を置き去りにしながら何となくいつもとは違う道を進んでいた時、路地裏から花子の匂いがしたので思わずそちらへ足を進めると血だらけになっている彼女がいた。
それを見て全身に水を浴びせられた気がしながらいつもなら状況確認をするはずなのに全くせず、無意識のうちに抱えて硝子の所へ運んだ。
休憩している硝子に金を握らせて治療をしてもらおうとするが、ひと目見ただけで全て返り血だと言われた。
その言葉に胸を撫で下ろした自分に驚いた。
最初は花子の言った通り興味本位だった、と思う。
確かに可愛いなとは思ったけど、その程度。アイマスクを外して声を掛けたらみんな顔を赤らめて誘いに乗ってくるのに「はぁ、他を当たってください」なんて言われたから意地になったところもある。
だけど、人が――彼女が死ぬかもしれないと思ってここまで焦った事はなかった。
「勘弁してくれよ」
硝子に着替えさせてもらったからか血の臭いはしなくなり、花子の匂いだけが鼻腔をくすぐる。それが落ち着くと思う日が来るなんて思ってもいなかった。
「……ん、え? 何で五条さんが? ここは?」
目が覚めたらしい花子がキョロキョロしながら質問してくる。それがなんだか小動物の様で思わず笑ってしまう。
「ねぇ、花子。僕に守らせてよ」
質問に答えずに口から出した言葉に花子はキョトンとした顔をするがすぐに口元を緩めて笑った。
初めて見る笑顔に胸が高鳴る。恋する乙女の気持ちが今ならわかる。
「私は自分の力で立ちたいんです」
「それでも花子の力が及ばない呪霊がいるかもしれないし、呪詛師がいるかも知れないでしょ?」
僕の言葉に花子がじっと目を見てくる。
「……今回は本気だと信じていいんですか?」
その言葉は肯定と捉えていいのだろうかと考えて唇に自分のそれを重ねる。拒否はされなかった。
「離れてって言われても離す気ないから。その代わり、僕の命に代えても守るよ」
僕の言葉に微笑んで「こちらこそ」と言った花子は今まで見たどんなものよりも綺麗だと思ったことは僕だけの秘密だ。