n度目の邂逅
※転生if / シュガー・ドラッグの続きですが読まなくても多分大丈夫です。
私には前世の記憶がある。というか、生まれ変わりなのかと思うくらいには前世と似た容姿をしている。名前だって前世と同じものだ。
小説なんかであれば、幼馴染に知っている人が出て来て楽しく過ごすのであろうが生憎そんなことは一切なく大学生になった。だが、入学式で一際目立つ夏油傑と家入硝子――そして五条悟を見つけた。相変わらず綺麗な顔で、辛辣なことを言っても周りから人がいなくなることはない。
彼らに記憶があるのかわからない以上、下手に関わるのは良くないと思った私は目立たないように生きているしこれからもきっとそうするだろう。折角呪いのない平和な世界に生まれたのだ、過去の分まで謳歌して欲しいと思う。
「なぁ、お前。お前だよ。……っ、無視すんな花子」
次の講義場所へと移動している途中、三人が喋っているのが偶然視界に入ってすぐに目を逸らす。五条君と目が合った気がしたが気のせいだろうとそのまま進んでいると後ろから声がかかった。声だけで誰が喋っているかがわかるが、だからといって振り返る気はなかった。……名前を呼ばれるまでは。
「何で名前……っ、たい」
振り返った時には既に近くまで来ていて、質問をしたかったのに思い切り抱きしめられたことで先の言葉は紡げなかった。私から離れる気がないらしく、周りの目が気になったが背中を規則的に叩いていく。
「良かったな」
そう言ったのは硝子ちゃん。
私を見て「よっ」と棒付きの飴を片手に持ちながら近寄って来る。表情から察するに彼女も記憶持ちなのだろう。久しぶりという私の言葉ににっこりと笑ってくれた。
「悟、そろそろ離さないと花子が潰れるよ」
次に来たのが夏油君でイヤイヤと駄々をこねる五条君の首根っこを掴んで私から引き剥がした。どうやら今世でも彼は五条君の保護者的ポジションらしい。
「夏油君も、久しぶりだね」
「そうだね。その節は申し訳ないことをした」
謝る必要なんてないのに頭を下げる夏油君に自分も頭を下げたら顔を上げた時、夏油は少し困った顔をしていて思わず笑ってしまう。
「うん、花子は笑顔の方がいいよ」
「ありがとう」
「そうだ、今日悟の家でゲームしないか?」
「……いいね」
高校生だった頃の彼らは、いつもそう言って五条君の部屋に遊びに行っていたものだ。今回はなぜかその集まりに呼んでもらえるらしい。
「決まりだね。連絡先教えて? 講義が終わったら連絡するから一緒に行こう」
「わかった」
頷いて連絡先を交換すると硝子ちゃんも一緒に交換すると言ってスマホを取り出してきたので、硝子ちゃんとも交換する。五条君はというとそっぽ向いていたので今世も関わる事はないのだろうと結論付け、挨拶を交わしてから急足で教室へと向かった。
◆◇
全ての講義が終わりスマホを開くと同じく終わったらしい夏油君から連絡が来ていた。門のところで待ち合わせをすることになったので急足で向かうと、そこに居たのは夏油君ではなく五条君で。
「あれ? 夏油君は?」
「買い物してくるって先に大学出たから俺が代わり」
「成る程。硝子ちゃんは?」
「一服してから来るってさ」
「なら待っとく?」
「いや、先行くぞ」
五条君の言葉に頷くとそれを確認した彼はさっさと歩き出した。足が長いのに少しだけ前を歩く彼は私の歩幅のことを考えてくれているのだろう。相変わらず不器用で優しい。優しさが相手に伝わらないようにするのは以前から変わっていない。
「ね、五条君」
私の言葉に彼は視線だけこちらへ向けた。
「大好きだったよ」
心残りだった告白を相手の都合なんて考えずに一方的に投げつけた。
「知ってる。……過去形になんてさせるつもりねぇから」
私の言葉に驚きもせず、余裕たっぷりに笑う彼を見てまた恋に落ちる音がした。