君の笑顔は祝福だから


鴉が、旋回している。
そしてその鎹鴉が何度目になるかもわからない訃報を告げるのだ。戦場にはまだ緊張した空気が漂っているし、遠くでは負傷した人を助けようとしている隊士の声も聞こえる。そんな中、私も戦場を走っていた。
鬼を斬る──言葉にすると至極単純なことに思えるのだけれど、難しいその行為に何人もの命が失われる。
次は自分だろうか、なんて考えながら今日という日を生きる隊士はきっと多いのだろうと思う。
そんなことを考えていたからだろうか、ヒュウっという音と共に鬼の腕がこちらを切り裂こうと振りかざした音がした。
咄嗟に身体を動かす事が出来ず、それでも命がなくなるよりかはと刀を持つ腕を前に押し出そうとした時、目の前に見覚えのある赤が広がった。

「煉獄、さん………?」
「花子、無事か?」

一瞬で目の前の鬼を斬ったらしい彼が、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
ああ、本当にこの人は。

「煉獄さんのおかげで無事です。ありがとうございます」

怪我がないなら良かったと大きな手で私の頭を撫でてくれその心地良さに目を細めていたが、今回の任務は他の隊士も沢山いる。怪我人もいた筈だ。
そう思ってキョロキョロすると「胡蝶が来てるから大丈夫だ」と声が飛んできた。成る程、抜かりないな、なんて思う。

「煉獄さん、帰ったらまた稽古をつけてください」
「すまない、すぐに次の任務に行かねばならなくてな。戻ったらまた稽古をつけよう」

次の任務という言葉になんだか嫌な気がして、思わず彼の隊服を掴んでしまった。先程鬼を倒したばかりなのに、どうしてもう次に向かわなければならないのだろうか。……答えはわかっている。隊士が、実力者が足りないのだ。私を含めた後輩が全然育っていないからだ。
そんなことを考える私をよそに初めての私の対応に彼──煉獄さんが「どうした?」と首を傾げる。

「行かないでください」

そう言おうと口を開いたが、咄嗟に出てきたのは「お気をつけて」だった。

「ああ、行ってくる」

そう言ってまた私の頭を優しく撫でてから鴉に連れられて次の任務地へ向かう彼の背中を見送る。
出来る事なら私も煉獄さんと一緒に平和な世界で、大好きだと伝えてこの妹みたいな立ち位置から抜け出したかった。……そこまで考えていた所で、ふと煉獄さんがこちらを振り返る。

「戻ったらこの前行きたいと言っていた甘味を食べに行こう。……そこで伝えたいことがある」

なんて、私を期待させるような言葉を告げて太陽のような笑顔を向けてからまた一歩前に進むのだ。

「敵わないなぁ」

小さくなっていく彼の背中に向かって呟く。一生敵う気がしない。
それでもきっと、二人でいる時間は特別なものになるのだろうと容易に想像がつく。
なるほど、思っていた以上に私は彼に惚れ込んでいるのだろう。

◆◇

無事に帰って来ることを祈っていた私に彼の訃報と最期の言葉を炭治郎くんが持ってきたのはそれから少し後になる。
その、もう彼がいないという言葉に『そうか、使命を全うしたのか』と思ったのと同時にもう本当に居ないのかと涙が溢れた。そして最期の姿を聞いて彼らしいと思う一方で、何故彼だったのか……なんて彼が聞いたら嗜められそうな事を考えてしまう。

「私も、近いうちにそちらへ」

その時はちゃんと迎えに来てくださいねと開いた襖の間から見える空へと祈る。……大丈夫、私の言葉はちゃんと彼に届いている筈だ。

◆◇

「約束、守れなくてすまない。……俺は、花子が好きだった。幸せにしたかった」

炭治郎くんが伝えてくれた、私に向けての最期のその言葉が彼の答えの筈だから。
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