五条悟とクリスマス
鞄にプレゼントを忍ばせお泊まりグッズも準備した。仕事はしっかり終わらせて二日は休めるようにも調整した。
メイクもバッチリ、髪もセットして好きな服に身を包む。うん、良い感じ。
今年は彼──悟さんと付き合うことになって初めてのクリスマスだ。
伊地知くんを何とか説得させ、上層部にも無理を言って悟さんの休みももぎ取ったから今日から二日間は二人でのんびりクリスマスを祝うと決めていた。
準備を終えたのとほぼ同時に悟さんから連絡が入る。どうやら家の前に着いたようなので荷物を持って戸締りをし、悟さんと合流した。休みを取るために忙しくしていたこともあり、お互いオフで会うのは久し振りで気恥ずかしくなってしまう。
「花子の私服見るの久し振りかも。可愛い。似合ってる」
「ありがとう。悟さんは今日も素敵だね」
笑顔で褒めてくれ、私の言葉にお礼をさらっと言える悟さんは本当に良い彼氏だと思う。そして私の荷物を受け取って車へ押し込んだ後、助手席のドアを開けてどうぞと言ってくる姿はまるで王子様だ。
促されるまま助手席に座り、それを確認した悟さんがゆっくりドアを閉め運転席へ移動する。たったそれだけの動作なのに絵になるからイケメンってすごい。
じーっと見ていたら「そんなに見られたら恥ずかしいんだけど?」と言われた。悟さんでも恥ずかしくなることがあるらしい。良い事を聞いた。
「最初はホテルのスイーツバイキングでいいんだっけ?」
「うん。野薔薇ちゃんが良かったって言ってたから行ってみたくて」
彼の生徒とはたまに立ち話をする仲だ。大抵は恋バナと新しく出来た人気のお店やファッションの話などなど。
私の言葉に「花子、いつの間に野薔薇とそこまで仲良くなってたの?」と最初こそ驚いていたが、すぐにカーナビに場所を入力して運転を始めていた。
「いつの間にか仲良くなってたんだよね。最初は悟さんの教え子がどんな子か気になって声をかけたんだけど」
「あれ? もしかして妬いてた?」
悟さんの言葉に思わず苦笑いがこぼれる。……私は元々独占欲が強い。ただ、モテまくってる人を束縛なんてしたら離れていきそうだから、悟さんに対しては当たり障りない距離感で付き合っていた。だからだろうか、少し意外そうに尋ねられた。
そりゃ、ヤキモチ妬きますよ。高校生なんて大人に憧れる年頃で、そんな時にこんなイケメンが担任だったら惚れるでしょ。なんて思っていたけど、現実は全くそんなことはなかった。悟さんは野薔薇ちゃんのお眼鏡には敵わなかった様だ。
一人でそんなことをぐるぐる考えていたら悟さんから名前を呼ばれて現実へ引き戻される。
「私、独占欲強いんです……って言ったら引きます?」
「全く。寧ろ嬉しいかも。それだけ僕の事が好きって事でしょ?」
返ってきた言葉に安堵するとちょうど赤信号で車が止まり、悟さんからキスをされる。もう少し触れて欲しい気もしたが事故になったら大変なのですぐに離れた。
「もっと僕を求めてよ。全部叶えてあげるから」
信号が変わる直前、離れた私に向かってそう言った悟さんのサングラスがずれ奥にある瞳と目が合った。
真剣そのものの瞳をじっと見つけて小さく頷くと左手で頭を撫でられた。心地良いこの体温も声も、一生独り占めは出来ないけれど数時間でも独占出来るのは私だけなのだと思うと心が温かくなる。
「それじゃあ、私が死ぬ直前に手を握っててね」
私の言葉に「そんなんでいいの?」と笑う悟さんにそれでいいんだと重ねる。だってそれに頷いてくれるなら、ずっと一緒に年を重ねてくれると約束してくれるってことでしょう?
そうこうしていると目的地について車に乗った時と同じ様に運転席から助手席に回った悟さんがドアを開けて「お手をどうぞ」とエスコートしてくれたのでそれに従った。
◆◇
「朝の話だけどさ」
一日目の終わり、悟さんが予約してくれたホテルでディナーを楽しんでいた時にふいに悟さんが口を開く。
続きを聞こうと手を止めたのを確認した彼が指をパチンと鳴らすとケーキを持った店員さんが来て、私に近付いて片膝をついた彼はポケットから掌サイズの箱を取り出して「花子、僕と結婚して下さい」と箱を開いた。
箱の中に入った指輪と悟さんを交互に見ているうちに涙が頬を伝う。それを感じながら何度も頷いた。
それを見た店員さんはいつの間にかケーキを置いて去っていて、嬉しそうに笑った悟さんは箱から指輪を取り出して左手の薬指に指輪を通してくれた。
「今なら死んでも良いかも」
「まだ新婚生活楽しんでないでしょ。死ぬのはまだ早いよ」
私の言葉に楽しそうに喉を鳴らしながら笑う悟さんに、それくらい幸せなんだと伝えると「もっと幸せにするんだからこんなことで死なないでね」と笑顔で言われて心臓が飛び跳ねたのは私だけの秘密だ。