愛なんてただの言葉


『今日来れる?』
任務終わりの報告をし終わった所でスマホに表示されたメッセージを見て、すぐ『行く』とだけ簡潔に返してポケットに戻す。
任務が早く終わって良かったなと思いながら返り血がついていないのを確認し、コンビニでお酒と甘いスイーツを買ってから連絡してきた彼──五条悟が所有するマンションへと向かう。
合鍵を貰ったわけではないので部屋番号を押してロックを開けてもらい中へと入り、エレベーターに乗りながら他に連絡が来ていないかスマートフォンを確認をするが何も来ていない。明日は休みになりそうだ。


「お疲れサマンサー!!」
「お疲れ様です」

玄関まで出迎えてくれた彼にコンビニの袋を押し付けるように渡し、受け取って中身を確認した彼はにこにこ笑いながら私をリビングへ招き入れてくれてからそれを冷蔵庫へと入れた。きっと後で食べるのだろう。
ここに来た時に必ず座るソファの右端に勝手に座り、勝手にテレビをつける。特に気になる番組ないなと思いながら、こうしてここに来るようになってから私が来る時には必ずと言っていい程あった、甘ったるい香水の匂いがしない事に思わず首を傾げる。
任務や教師としての仕事が忙しいのはわかっているが、その合間に彼がここで色々な女性と会っているのはわかっていた。
でも、私は彼女ではないし身体だけの関係だから特に何かを言うこともなく、でも片想いしている人が自分以外の異性を抱くことが悲しかったが少しずつ彼はみんなのモノだからと気持ちを昇華させて行くことが出来てきている。

「花子?」

そういえば、名前で呼ばれる様になったのはいつだろうか、なんて思いながら視線を声の方へと移すと私の顔を覗き込んでいる五条さんがいた。

「どうしました?」
「お風呂、入るでしょ?」

いつものタオルに着替えを手渡されながら、これもいつものことだなと考える。
勿論下着はないが、お風呂をあがってからすることや他の女性もいる中でそれぞれの女性に合った下着を用意するのは大変だろうから、特に文句はない。……あったとしても言う度胸はないが。


「あったかい……」

身体を丁寧に洗って湯船に肩まで浸かると寒さで冷え切った身体が温まっていくのがわかる。
(お風呂に入るまでは面倒だと思うのに、入ったら入ったで今度は抜け出せなくなるんだよな。その現象に名前はあるのだろうか)

◆◇

お風呂から上がった私は、ソファに座って長い足を机の上に置いて映画を見ている彼を邪魔しない様にと空いているスペースに座る。
そうすると自然と私の腰に彼の腕が回って抱き寄せられてキスをひとつされ、ソファに押し倒される。その一連の流れで今日もまた彼に抱かれるのだと理解するのだ。

「今日は上の空って感じだけど、何かあった?」
「特には」

そう。特に何かがあるわけではない。
考えてはいけないのだ。
この関係に意味なんてものはない。
あるのはただ、お互いのストレスが発散出来る事実だけだ。──いや、正確には私の精神は少しずつすり減っているからお互いではないけれど。
私はいつの間にか他の女の影に怯えて、それでも離れられなくて……離れなくていい理由を探して自分の気持ちに蓋をし続けているのだ。

「嘘つくの? 花子が僕のことどう思ってるか、何となくわかってるつもりだけど。僕、ちゃんと花子のこと見てるからわかってるつもりだよ」
「嘘」
「それは何に対しての言葉?」

わかってるだろうに、私に言わせたいのか態とらしく笑って投げかけてくる彼が憎らしい。

「……今日はしないんですか?」
「話逸らしちゃうんだ?」

にっこり笑ったと思ったのは気の所為だったと思える程、一気に五条さんの周りの空気が変わった。
私のこういう曖昧な態度が彼を不機嫌にさせたのだろうとまでは理解出来るが、緊張して喉がカラカラで言葉が出ない。
そんな私に「大丈夫? ゆっくり息してみよっか」なんて言う五条さんの言った通りゆっくり深呼吸をする。

「五条さんは、誰かを欲しくなったことありますか」

何度か口をぱくぱくと動かしてから漸く出た陳腐な、そして要領を得ない私の言葉に五条さんは首を傾げ、「何を今更」と返してくる。
その言葉が意味することを理解出来ずにいる私に「欲しいと思ってるからこんなに大事にしてるじゃん」なんて言う五条さんは、本当に私の知っている五条さんなんだろうか。
相変わらずポカンとしている私の両頬を両手で左右へ引っ張ると「僕が忙しいのはわかってるよね? 家にいる時は花子を呼んでるし、優しく抱いてるでしょ?」と教え子相手かと言いたくなる口調でゆっくりと優しく、そしてほんの少し甘く伝えられる。

「でも好きだとか愛してるって言われたことないですよ?」

私の言葉に今度は彼がキョトンと目を丸くした。

「言葉が欲しかったの? 口先だけなら何とでも言えるって言われると思ったから態度で示してたんだけど」

なんだそれ。
確かに行動は大事だけれど、言葉が何もないと話にならなくないか、なんて自分のことは棚に上げて考える。

「花子の希望なら今度からちゃんと伝えるようにするよ」
 
そんな私の考えを他所にそう言った彼の空気は優しいものに戻っていて、本当に私が好きなのだろうと理解出来た。
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