01 無かったはずの再会と

「神機兵に次ぐ、新たな戦闘用マシーン、ですか」
 私は反復するように言った。話を振ったギルは、頷いた。
 彼の話によると、最近、何かのプロジェクトが進行しているとの噂が流れているらしい。詳細は、前線で闘っている神機使い(ゴッドイーター)はおろか、各支部の神機開発者たちも知らないようだ。この極東支部も例外ではなかった。
 ただひとつ分かっているのは、何やら、神機兵とは別の、新たな「対アラガミ用戦闘マシーン」のようなものが作られていることだった。
「ああ……噂、だけどな」
 ギルは念を押すように言った。
「神機兵に似た、ってことは、アラガミを倒すロボットみたいな感じだよね?」
 私は素朴な疑問を投げ掛けた。
「この話はナナにもシエルにも振った。この噂、あいつらも知らなかったらしい」
 詳細は分からない、というのは他の隊員も同じらしい。私は首を捻った。
「まずギルがなんで知ってるか不思議なんだけども」
「俺はハルさんから聞いた」
 私が訊くと、ギルはそう答えた。「ハルさん」こと真壁ハルオミは開発者ではなく、神機使いだ。私は更に首を傾げた。
「前言撤回。ギルが知ってるよりもハルオミさんが知ってるほうが不思議」
 そう呟きながら、私は、ハルオミさんなら知ってそうではある、と妙な納得を感じていた。彼は何故か様々な人、主に女性と面識がある。情報のやり取りは人並み以上に多いはずだ。たまにセクハラ紛いな話を振ってくるのがキズだけれど、先輩であるハルオミさんのコミュニケーション能力と、長年培ってきた戦闘術は、目を見張るものがある。
「ナナは、『合体するような巨大メカみたいな感じ』じゃないかって言ってたな」
 現在のブラッドのムードメーカーがそんなことを口にしていたのを聞き、私は笑った。
「あはは、ナナらしいや」
 そして、自分より前向きな彼女のことが、少し、羨ましかった。



「本日、なまえさんに入っているミッションは、ツクヨミ討伐です」
 私の今日のミッションは、ツクヨミという人形アラガミを討伐するというものだった。ツクヨミは、強い。歴戦の神機使いでさえ苦戦する相手である。そのようなアラガミを一人で狩れというミッションは、私にとって、重たいものだった。他の神機使いは、また別の任務に駆り出されている。今動けるのは、私しか居なかったのだ。
 それにしても、妙だ。私はどちらかというとヴァジュラ種やガルム種、ハンニバルのような、素早く動き回るアラガミを苦手とする。今回の討伐対象であるツクヨミは、確かに動きは速いとはいえ、それらのアラガミと比べると、動き回る方ではない。
 なんでこんなに手こずってるんだろう。私は神機を銃形態に切り替え、距離を取り、アラガミに向かって銃弾を放つ。
 おかしいのだ。こんなに手こずるはずがない。私はそう思う。
 交戦して間もなく一五分くらいになるだろう。何度も何度も攻撃を喰らわせているのに、ツクヨミはダウンするような素振りを見せない。結合崩壊も起こしていないようだ。
 明らかにおかしい。私は後ろに下がりながら、天輪を狙って銃弾を放つ。
 ツクヨミは即座に間合いを詰めた。
 油断した。
 バレットもろともツクヨミの腕に弾かれる。
「うあっ……!!」
 攻撃をそのまま受けてしまい、身体が弾き飛ばされた。
 まだ、体力は残っている。すぐに起き上がって、自身の神機を剣形態に切り替えた。
 私はアラガミに飛び掛かり、神機をそれに突き刺す。ブラッドアーツ「麒麟駆け」である。
 ツクヨミを切り、蹴りあげる。連続した攻撃は着実にアラガミの体力を削っていく。
 しかしながら、甘くはない。ツクヨミが地面に這いつくばる姿勢を見せる。これは、攻撃の合図だ。
 まずい。装甲を展開しようとした。が、遅い。
 ツクヨミの方が先手を取った。真空波が襲いかかる。
「うわあっ!」
 私は直撃を受けてしまった。体勢を立て直す余裕もなく、第二波が放たれる。
 身体を無理矢理動かし、私はそれを避ける。二度目の直撃は免れたが、ツクヨミの攻撃は手を掠めた。
 瞬間、手に痛みが走る。私は、思わず握っていた物を、神機を放してしまった。
 ガシャ、と、大型の機械類が落ちたような音がする。私はすぐに自分の武器を手に取ろうとした。だが、ツクヨミは攻撃体勢に入っている。
 まずい。撤退しようか。思ったよりダメージが大きい。身体がいつもより重く感じる。
『ミッション残り時間一〇分を切りました!』
 フランの声が無線から聞こえる。それはそうだ。随分と長期戦になってしまった。疲労を感じるはずである。
 私は、身の危険を感じた。手に嫌な汗をかいているような、そのような感覚を気にも出来ないほど、自身の生命を守る術(すべ)を、脳内の思考回路を全て回転させて考える。
 ツクヨミは、今にも攻撃を仕掛けようとしている。
 だめだ、早く逃げないと。アラガミの攻撃モーションが焦(あせ)らせる。私は回復錠を口に入れ、立ち上がろうとした。
「いたっ……!」
 しかし、上手く立ち上がることが出来ない。足の痛みを感じ、思わずへたり込む。
 ツクヨミの放った真空派がこちらへ向かってくる。
(――ここで、終わり?)
 私は、ぎゅ、と目をつむった。


「援護する!」


 しかし、その攻撃はこちらに届くことは無かった。
 私を守ろうとするその声を、私は知っている、そして誰よりも大切で守りきれなかった人物のものだった。
 横からアサルトバレットが連射される音が聞こえる。目を開けると、誰かが自分をその神機で、盾で守ってくれていた。
 私は、二人のその神機使いの姿を、目を見開いてしっかりと確認する。まるで、夢でも見ているようだった。
「大丈夫?!立てるか?」
 盾を展開した彼は私に手を差しのべた。
「やっぱ俺がいないと駄目だな!」
 彼はそう言った。私は手をつかみ、立ち上がると、すぐに神機を拾った。
 アサルト使いに気を取られ、こちらに背中を向けているツクヨミへ、真っ直ぐに駆ける。
 そして、宙返りをするようにジャンプし、アラガミを、薙ぎ払った。



『帰投準備完了までしばらくお待ちください』
 無線からオペレーターの声が聞こえる。
 ツクヨミを倒し、落ち着いた私は、自分を助けてくれた二人をまじまじと見た。
 見間違えるはずがないのだ。やはり、あれは、ジュリウス・ヴィスコンティとロミオ・レオーニだ。私は確信していた。
 自分が再会を望んでいた人々である。しかしながら、私はその再会を素直に喜ぶことは出来なかった。
 彼らが本物とは思えなかったのだ。
 私は、知っている。命を賭けて大切な恩人を守ったロミオのことを。特異点となり今もなお二つの終末捕喰を、螺旋の樹内部でそれらを統制しているジュリウスのことを。
 ロミオは故人である。また、ジュリウスが螺旋の樹から居なくなれば、今ある世界は滅ぶ。ロミオが生き返っただとか、ジュリウスが螺旋の樹から出てきたとは考えにくかった。
 黒と金のボディの、ロングブレード、アサルト、シールドといった神機パーツを持つ青年を、私は見る。さっきアサルトバレットを連射していたのは彼だ。亜麻色の、男性にしては長い髪を、頭の上で結んでいる。長身で、すらりとした体型の彼は、残されたブラッド隊員である私たちにとっては、永遠のブラッド隊長であった。
 一方、私を守った、帽子を被った方の彼は、バスター、ブラスト、タワーシールドという重そうな、黒とオレンジの神機パーツを使用している。年齢の割には童顔である。金髪碧眼で、周りよりは低身長の彼は、私たちの先輩であった人物だ。
「貴女が、なまえだろうか」
 ジュリウスによく似た彼は、私を呼んだ。まるで、事前に聞かされていたが、私のことは、何一つ、知らないような口振りだった。
「君たちは、本当にジュリウスとロミオ……なの?」
 私は問いかけた。