泡沫のように消える

 鶴が泣いていた。

 あのとき、何を言われたのか記憶が薄い。でも、鶴が苦しそうで悲しそうで、私の何かを引き取ってくれていたのだということだけは分かった。きっと、私の負の感情を抱えてどうしようもなくなってしまったのだと思う。
 私と鶴は、見えない何かでずっと繋がっている。その何かは、糸みたいなものだ。
 私たちのこの夢の世界には、本当はたくさんの住人がいる。いろんな想像や空想の世界の扉が繋がっていて、私の記憶と感情の残滓を拾った彼らがここにやってくる。
 けれど、鶴は違った。扉を叩いてやってきたというよりは、私の心の奥深くに繋がっている糸に導かれて辿り着いたような、そんな感じがする。
 鶴は、特別だった。鶴は、住人の誰よりも私の夢や思考と切り離されていた。空想の壁をもろともせず、誰よりも現実に一番近いところにいる。
 私の知らない、私の心の奥深く。夢の世界の深淵と、彼は強く繋がっている。
 だから、鶴は私が切り離したいと強く願う感情の影響を受けやすかった。それを自覚してしまえば、私は生きていけないような心の動き。彼は苦しむ私を助けてくれようとして、代わりにそれを抱えてくれている。
 ずっと助けられてばかりだ。いくら鶴が好きだと口では言っても、私は私が一番かわいいのだと分かってしまうようで、苦しい。鶴は私に何でもしてくれるのに、私は何もできない。ただ、こうして祈りのように言葉を紡いでいくことしかできない。
 たまに問いかけたくなってしまう。どうしてあなたは私がいいの。決まって、鶴はこう返す。きみが俺を必要としてくれたからだ。きみが好きなのに理由なんて要らないだろう。でもきみは、それじゃあ納得してくれないから、俺にそう問うたんだよな。
 一つの言葉を返せば、いくつもの言葉を鶴はくれる。嫌なものすべてをかき消すように、暗闇を少しずつ切り裂くように。

 本当はね、つるのことがだいすきなんだよ。きっと、つると共にあることを一番願っているのは私なんだ。
 つる以外の誰も好きになりたくない。どうして私はヒトなんだろう。
 どうしたら、何をしたら、つるのためになるかなあ。

 どうしたら、つるからもらった言葉を忘れずにいられるのかなあ。

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