歓迎






乙骨くんが転入してきてから、一週間が経った。

「歓迎会してない!乙骨くんの!」

由々しき事実に気付いて駆け込んだ教室で、真希ちゃんがめんどくさそうに耳をふさいだ。棘くんとパンダくんがトランプ(机に並べられている感じからしてスピードをしていたらしい)をしていた手を止めてこちらを見る。

「おかえり。予定より早かったな?」

「なんか硝子ちゃんが結構重めのお仕事にお呼ばれしちゃったから、途中で帰されたの。これお土産のカップ麺」

「ツナマヨ」

「そう、カップ麺。なんかカップ麺の出汁って東日本と西日本で違うんだって。だから食べ比べ会しようと思って人数分買ってきたんだ〜。あれ、そういえば乙骨くんは?」

「なんか悟に連れていかれたぞ」

「だから悟くんもいないんだ」

でも乙骨くんを連れて行ってくれていたなら、むしろちょうどよかったかも。本人のいる場所で歓迎会の相談をしたら、サプライズができなくなっちゃう。

「ねぇ、歓迎会しようよ〜かんげいか〜い」

「おまえそういう所のテンション、悟とそっくりだよな」

「やめて、傷つく」

流石にあそこまでウザがられるようなテンションではなかったはずだ。……なかったよね?
ようやく耳から手を離した真希ちゃんにすかさず近寄ってすりすりすれば、「ちけぇ」と眉をしかめられた。でも椅子を半分あけて私が座りやすいようにしてくれているから、照れ隠しだと思ってそのまま話を続ける。

「せっかくの新しい同期だよ?これから四年間一緒になわけだから、親睦深めようよ〜」

「四年間アイツも私らも生きていればだけどな」

「生きるもん。そのために仲良くなって連携を取りやすくしよう!歓迎会しよう!」

「マジでへこたれないな」

「ねっねっ!おねがい!」

「……ハァ〜〜〜〜」

「お、真希が折れた」

「しゃけ」

「やった!今日やろ今日!」

真希ちゃんさえ説得してしまえばこっちのもんだ。棘くんもパンダくんもこういうのにはノッてくれるもんね。
開催が決定したなら、あとは大事なのは何を食べるかだな。同じことを考えたらしいパンダくんが腕をくんで首をかしげた。

「無難にウーバー○ーツで寿司でも頼むか?」

「この前満漢全席やろうとした時、配達可能エリアじゃなくて諦めなかったっけ」

「しゃけしゃけ」

東京なのにフードデリバリーが届かないところに学校があることは本当にバグだと思う。

「すじこ」

「そう?じゃあ真希ちゃんと棘くんで買い出しお願い」

「あ?なんで私も」

「真希ちゃんはジャンクフード系食べたいでしょ?」

棘くんはお寿司とかを見に行ってくれるだろうし。
眉をひそめたけど黙り込んだ真希ちゃんが最近ケン〇ッキーに行けていないという情報は、既につかんでいるのだ。なぜなら昨日、本人に愚痴られたばかりなので。

「千冬、すっかり真希の乗せ方うまくなったよな」

「ホント?愛の力かな」

「そのうちコイツ絶対第二の悟になるぞ」

「ならないもん!」

フンと鼻をならした真希ちゃんは「どーだか」と吐き捨ててから、半目で私を見てきた。

「ていうかおまえよくアイツのこと信用できるな。この一週間も結局任務だったりで全然接点ないだろ」

「うん?まあそうだけど、真希ちゃんは努力する子とか頑張る子を見捨てたりはしないから、真希ちゃんが見限ってないってことはそういうことかなって」

「………」

「あっ、いたい」

黙ってデコピンをされたけど、このデコピンは照れ隠しだと分かっているのでめげない。真希ちゃんソムリエの私にはまるっとお見通しなのだ。

「そしたらパンダくんは部屋の飾りつけとか準備をお願いね」

「わかった。千冬は何をやるんだ?」

「私は時間までのんびりおやすみすううううううう」

「あ?」

元気よく宣言をしている途中で、真希ちゃんに容赦なくほっぺたをつねられた。伸ばしにのばしてくるものだから、ぺちぺち叩いてから降参のポーズをしてなんとか離してもらう。

「私今日めちゃくちゃ真希ちゃんにいじめられてる!DVだよこれDV!家庭内暴力!」

「他に言うことは?」

「乙骨くんを足止めしてから連れてきます!」

もう一度ほっぺに手が伸びてきていたので、させまいとガードしながら叫んだ声は教室中に響いた。








「おかえり〜」

「えっと、ただいま……?」

夕日が射す教室に鞄を取りに戻ってきたのであろう乙骨くんは、他のクラスメイトの代わりに私がいることに戸惑っていたようだった。

「もう授業終わったから皆帰ったの。私は乙骨くんを待ってました」

「そう、なんだ」

何で待ってたんだろう、と顔にありありと出ている。わかるわかる。全然接点ないし、何なら朝いなかったもんね。
でも真希ちゃんから(凄まれて)託された任務があるので、素知らぬふりをして雑談をふることにした。この少しの間のやり取りで、乙骨くんは話しかければ(少しびくつきながらではあるけど)反応してくれることはわかっている。

「乙骨くんは食べ物なにが好き?」

「塩キャベツ……の、ごま油あえです」

「焼肉屋さんのやみつきキャベツみたいなもんかな?じゃあ今度悟くん抜きで焼肉行こうよ」

「五条先生抜きで?」

「うん。悟くんはお高い焼肉しか知らないから、多分連れて行ってくれるお店ではやみつきキャベツ出て来ない」

「なるほど……知らない世界だ……」

「ふふ、でもたか〜いお店の焼肉は今度奢ってもらおうね」

あれはあれでなかなか楽しいのだ。あとあまりに誘わないと拗ねるし。27歳児の本気の駄々こねなんてあまり見たくない。
ダラダラと好きな食べ物の話を続けていれば、ペポン、なんて気の抜けた音が響いた。ちらりとスマホを見れば、「準備できた。棘達も帰ってきてる」と通知が来ている。

「じゃあ行こっか」

「どこに?」

「寮〜。だから正しくは帰ろっか、かな」

そういえばこの一年のグループにまだ乙骨君追加されてないや。歓迎会の時に乙骨君の連絡先を聞かなきゃ。
あ、でもその前に。

「乙骨くん!」

元気よく名前を呼べばきょとんと首を傾げる乙骨君に、にっこり笑ってみせる。

「高専へようこそ!」

ややあってからふにゃりと笑った乙骨くんの表情は、普通の高校生が見せるそれと全く同じだった。




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