20分だけのバカンス

通常、いきなり拉致られてサイドカーに乗せられたら警察に通報するよな。でも警察じゃ役に立たない場合はどうする?時速百キロのバイク、下手したら死ぬし、下手しなくても殺されるかもしんない。

「どこに連れて行く気なんだ…」

私の問いに、ダークトリニティの…どれだ、やたら人の原チャリに乗りたがる奴、通称原付は何も答えない。というか一言も喋ってない。無言のまま流れる時を、私はどうやり過ごすべきか考えあぐねている。

俺は高校生探偵、工藤レイコ。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、マスクで顔を覆った怪しげなノースリーブを目撃した。呆然として立ち往生していた俺は、正面にいた奴がいつの間にか背後に立っている事に気付かなかった。俺はその忍者に担ぎ上げられ、どこかに運ばれたと思ったら…バイクのサイドカーに乗せられていた!

劇場版風にお送りするとまぁこういう感じのダイジェストになるわな。正確にはコンビニに行こうと家を出たらダクトリがいて、私をサイドカーに乗せて拉致っているって話。意味…わかるか?私にはわからん。もう半分諦めたというか、風を浴びてたらどうでもよくなったというか、つまり無。このゴツいバイクは一体どうやって手に入れたのか気にならないと言えば嘘になる…でも聞きたくないよ。犯罪の香りするから。
私はいまだにボロ原付なのにこいつはいつの間にかいいバイクにグレードアップしてるとは…同じ無職のはず、この格差はどこで生まれる?裏金?

腹いせにサイドカーを蹴りながら、私は外を見る。
セキチクまで来ちゃったよ…サファリで遊びたいのか?お前なら五歩ぐらいで最奥のトレジャーハウス行けるだろ。園長の入れ歯を回収する姿を想像したが、原付奴はさっさと街を通りすぎて海の方へ向かって行く。
まさかとは思うけど…入水とかじゃないだろうな…プラズマ団全体的にメンヘラ電波なところあるから…ついにイカレちまって私を道連れに死ぬ気かもしれん。お前が死んだら他の兄弟はどうなる!と説教モードに入っても良かったが、そんなことより脱出が先だ。
隙を見て逃げる!とベルトを外す準備をする私に、意外にもその瞬間は早めに訪れた。

せっかくのバイクが砂まみれになるのも構わず、ダクトリは浜でバイクを停めた。ちょうど夕陽が沈むところで、特に何をするわけでもなく海を見つめていたから、私もサイドカーから水平線を眺める。
なんだこれ。お前じゃなかったらデートかと思うシチュエーションだが?

「…きれいですね」

気まずすぎて声をかけたが、無言である。マジで何なんだこいつ?Nも大概不思議野郎だけどお前も意味わからんからな。お前らへの知識が公安なみにゼロだわこっちは。
付き合ってらんねぇよと思いつつも、身投げするかもと思ったら何となく放っておけない私である。性格の良さに泣けてくる。

「…お前、名前なんていうの?」

死ぬ前に聞かせてくれと私は尋ねる。すると原付はようやく私との対話に成功した。

「…ダーク」
「他の兄弟は?」
「ダーク」
「もう一人は?」
「ダーク」

帰ろう。会話成功してなかった。
なめてんのかと私はキレ気味に砂を蹴る。ダークが三人でダークトリニティ、そんな安直なわけあるか。
いや待て、Nも元素記号みたいな名前だし、ぶっちゃけ個体差もよくわからないから、案外ガチなのかもしれない…個を個として認識されず、影の存在として生き続ける日々…そりゃ死にたくもなるかもしれない…だけどな、生きてりゃいい事あるって!私みたいな美女と夕陽見れたし!
元気出せよ、と適当に拾った白い貝殻をダークに渡し、つらくなったら貝に耳を当てて海の音でも聞くがいいとなだめた。しかし原付野郎は迷惑そうに目を細めたあと、貝殻を投げ捨てかけて、寸前で踏みとどまる。ノスタルジーな雰囲気に、私は暗闇に染まりそうな海を眺めた。

まぁ…たまにはいいんじゃないか、海見るのも。ヒウンの港とはまた違う風情だろうよ。私が見たい景色は自室の風景だけですけどね。帰っていいか?
それで結局用事はなんだったんだよと振り返れば、ダークはバイクに跨りエンジンをかけていた。ちゃっかり貝殻は持ったままハンドルを握り、タイヤの摩擦で砂を巻き上がらせると、私に砂を浴びせながら走り去っていく。
夜の海に残される私、そしてサーファー、浮かれカップル。
何だこれ。さっきは止めたけど、やっぱ入水しては?

「ねぇ、さっきのバイクかっこよかったね」

砂を払っていると近くにいたカップルの女がそう言ったので、もしやあいつバイクを自慢しにきただけだったのではと思い至り、私の怒りのボルテージが上がっていく。

「やめなよ…あの子置いてかれたみたいだし…」

振られちゃったんだよと同情に満ちた表情で私を憐れむカップルのひそひそ声がとどめとなり、怒りに任せてセキチクの海に流木を投げた。レイコは激怒した。必ずやあの元原付野郎を見返さねばと決意した。

見てろ!絶対ハーレイ買ってやるから!中古でな!