私の名はレイコ。何故かヒスイ地方とかいう現代人が生きるには過酷すぎる時代に飛ばされ、スマホの代わりにアルセウスフォンを渡され、ネットサーフィンを奪われた事に絶望するニートレーナーだ。全てのポケモンと出会えば元の世界に戻れると信じて本日も調査に明け暮れているぞ。鬱。
今日はずっと放置していたアンノーン集めという地獄の所業に手をつけ始めたのだが、まぁ普通に地獄だよね。わかってた、博士からアンノーンの調査メモをもらった時から、全部わかっていたんだ。これが沼の始まりだってことは。でもこんなに散り散りになってる必要なくないか?アンノーンって群れてるポケモンじゃなかったっけ?常識では考えられない事が横行しているアンビリバボーのような世界、それがヒスイって事なのかよ。早く帰らせてくれよ。
文句を言いながらも、私はニートのわりに優秀な調査隊員…アンノーン集めもあと四種というところまでやってきていた。
マジで疲れた。本当に疲れた。なんでアンノーン全種集めるなんてこんな金銀キッズみたいな真似を私がしなきゃならないんだよ。大体アンノーンを集める事に意味なんかあるのか?全てのポケモンと出会えに全てのアンノーンと出会えは含まれているのか?これは必要な調査なんですか?ただのラベン博士の趣味なんじゃないんですか?
疑心暗鬼になりながらも、あと四種である。ここまで来たらさっさと終わらせたい。あとまだ灯火集めも残っているとかそんな事は考えたくないんだ。集中しよう。終わったらイモモチ食って寝るんだよ私は。
「残りは…Eと…LとOとVか…」
当然Excelなどないので、手書きで集め終わったアンノーンにバツ印を書き込んでいく。残った文字列を見つめていた時、私はある事に気が付いた。
これ…並べ替えるとLOVEになるんじゃないか…?マジで鬱になってきたんですけど。
陰キャには程遠い四文字を落書きしながら、どんどんテンションが下がっていく。なんでよりによってラブが残るんだよ。私が真に見つけるべきはアンノーンじゃなくて愛だとでも言いたいのかよ。うるせぇな。
神様のいたずらにキレながら、紙を握り潰そうとした時、またしても私は奇怪な文字列を発見してしまう。
「待てよ…」
何という事だ。VOLOも隠れてるじゃないか。
うわ〜嫌な名前見たな…本当に鬱になってきたわ…。自分で紙に書いたLOVE VOLOの文字でさらにテンションが下降し、胡散臭い人間の顔を思い浮かべる。これでEを先に見つけちゃったら、ガチでVOLOしか残らない事になってしまうので、何としてもEを後回しにせねばという決意が芽生えた。
あの人あんなにシロナさんに似てるのになんか関わりたくない雰囲気あって苦手なんだよな…どこにでも現れるし…しれっとポケモン勝負仕掛けてくるし…ウザ絡みしてくるし…何だか幸先も悪いような気がしてきた…。
勝手に縁起の悪さを感じながら溜息をつき、独り言を呟いたその時だった。
「気付くんじゃなかった…」
「何に気付いたんですか?」
「うわ!」
突如として背後から声をかけられた私は、驚きのあまり飛び上がり、アンノーン調査のメモ紙を吹っ飛ばした。この危険と隣り合わせの土地で生きる悲しい経験から、私は人智を超えたスピードで距離を取り、カビゴンのボールと捕獲用のボールを咄嗟に構える。その二刀流姿は、のちにヒスイの大谷翔平と語り継がれる事になるなんて事は特にないのであった。
危うくボールを投げつけそうになったが、振り返った先にいた人物を見て、私は腕を下ろす。そしてまた構え、また下ろし、殴るかどうか決めあぐねながら顔を歪めた。声で何となくは察していたが、タイミングよく現れた事に悪寒を感じ、神出鬼没なその人物に苦手意識は上昇していく。
マジでおかしい。噂をすれば影どころじゃない、脳裏に浮かべただけで実体が現れるの何。ホラーなんですけど。
「奇遇ですねレイコさん。驚かせるつもりはなかったのですが」
「ウォロ…さん…」
白々しい。絶対隙あらば驚かす気でいるに決まってる。
私の落とした紙を拾い、相変わらずな態度で笑顔を浮かべたウォロは、一体どこから現れたのかすぐ背後まで迫っていた。私が工藤新一だったらあっさりアポトキシンを飲まされていたとしか思えないその俊敏さに、やはりどこか怪しいと疑わしい気持ちを向ける。だってこの私の背後を取るんだぞ。数々のポケモンの背後を取ってきた私の背面を音もなく取れるなんて絶対おかしいだろ。死地で鍛えた身体能力舐めるなよ。ニートには1ミリもいらないんだよこんな悲しい力は。
「今日はここで調査ですか?」
「まぁ…はい…アンノーンを集めてて…残り四種ほどに…」
「そうでしたか!古代の文字に似ているとか、逆に古代文字の方がアンノーンを模しているとか…おや?」
また謎知識をべらべら喋り出すのか…と話に付き合わされるのを覚悟した瞬間、ウォロは拾った私のメモに視線を向けた。なんて事はないアンノーン捕獲リストだったが、そういえばさっき憂鬱な落書きをした事を思い出し、私はハッと目を見開く。
やば。LOVEVOLOって書いてあるわそれ。事実無根にも程がある文字列が記載してある!
誤解だ!と取り返そうとした時、先にウォロが口を開いたため、出遅れた私は言葉を発する事ができなかった。
「残り四種というのは…これですか?」
すると、完全スルーで進捗だけを尋ねてきた事から、私は一つの可能性に辿り着いた。我々の時代ではすでに解読されているアンノーン文字だが、ヒスイの人たちはまだこれが何を意味するのか知らないのではないかと考えたのである。
「よ、読めるんですか?」
それならまだ勝機はある!と様子を窺い、私はウォロへ尋ねた。いくら博識なウォロ氏といえど、世の中は広い、まだまだ知らない事だってきっとあるはずだ。これが意味深な言葉だと気付かず、謎の記号にしか見えていないかもしれない。そうであれ。そうであってくれ。本当にない、ラブなんて1ミリもないんです!他の人には多少あっても何故かウォロには1ミリもないんです!不思議なくらい好きじゃない!好感度一生上がらない!
失礼にも程がある事を考えながら祈り、そしてついに判決が言い渡された。
「いえ、さっぱりです」
よかったー!命拾いしたー!不名誉な誤解を受けるところだったー!
私は愛想笑いを浮かべながらメモを奪い返し、私も全然わからないんですよね的なリアクションをしながら、これ以上ない安堵の溜息をついた。
本当に無理、私がウォロを想ってつい愛の言葉を記してしまったなどと思われるのだけは本当に無理だから。たまたまだから。たまたま四つの文字を使うとウォロの名前が浮かび上がる事に気付いてしまっただけだから。そして気付きたくなかった。テンションめちゃくちゃ下がったから。
もうこのメモはいらんわ…とぐしゃぐしゃに丸めて握り潰し、全てを忘れて立ち去ろうとした。私は忙しい身…ウォロに構っている暇などない。ウォロだって何か用があってこの辺をうろついているんだろう。早く仕事に戻れよとニートに言われたくない言葉ナンバーワンを心の中で囁きながら、私はゆっくりと後ずさる。
するとウォロは、顎に手を当てて何やら意味深に微笑むと、どうしてか私に近付き、メモを握り締めた拳を見つめて呟いた。
「ただ…」
嘘っぽい微笑みに気を取られていた私は、彼の言葉を一瞬理解できなかったのである。
「悪い気はしませんね」
「…ん?」
それでは、と横をすり抜けて去っていくウォロは、こちらの別れの台詞を聞く気もない様子で遠ざかっていく。しばらく後ろ姿を見つめ、よくよく意味を考えた私は、一つの真相に辿り着き、鳥肌を立たせながら激昂した。
「読めるんじゃねーか!」
やっぱ好きじゃねぇー!嫌いかも!殴りたいかも!
今すぐDEATHのアンノーン引き連れてめざパぶち込んでやる!と固く誓い、もはや誤解を解くよりも暴力的な衝動に蝕まれていくレイコなのであった。
いやでもEのアンノーンこれから捕まえるんだったわ。マジ鬱。