序章

コンビニへ行こうと歩いていたら、建物の中に避難してください!と誰かが叫ぶ声が聞こえた。
通行人はざわつき出し、まさか無差別通り魔でも出たのかと私はボールを取り出す。
最近物騒だからな…私もよく詐欺に遭うし…まぁ犯人は全部父親なんですけど。絶縁してやろうか。

私は親子の縁を切りたい女ことヤマブキシティのレイコ。父からニートニート詐欺に遭い続けているニートレーナーである。
その手口は巧妙で、今のところ被害率は100%なのだが、そんな私に新たな犯罪が絡んできそうな予感だ。本当に不幸な人生である。

この平和なはずのヤマブキで、何やら事件が起きているらしい。ここは素直に避難しようと足早にコンビニへ向かう。角を曲がればすぐだ。
なんだろう、ジュンサーさんの切迫した声がかなりガチだったが。まさか北のミサイルじゃないよな?と洒落にならない事を考えながら道を曲がった時、Jアラートより早く私は危機を察知した。
というか、さっきの声が何故ジュンサーさんのものだとわかったのか疑問を抱いたと同時に、答えはもう脳裏に浮かんでいたのである。

なんだ、この既視感。私…どこかでこの光景を見た気がする…。
もやもやした心境で方向転換をしたまさにその瞬間、黄色い物体が勢いよく走ってきたのを見た。同時に、デジャブの正体を完全に理解して、驚きながら声を上げた。

「す…」

またしてもワイルドスピード顔負けの何かにぶつかりそうになり、ギリギリで私はそれを避けた。激しく揺れる振り子を、マトリックスのようにかわしながら。

「スリーパー!」

走ってきたのは、スリーパーだった。
見た目のわりに機敏なその体は、私を見つけると足を止める。そしてお互いにこう思った事だろう。

こいつ…六周年記念の時の!

「スリーパー!止まりなさい!」

また事件起こしてんのか!反省したって言ってなかったっけ!?
舌の根も乾かぬうちにジュンサーに追い回されているそいつを見て、私は当然警戒した。

忘れもしねぇ、あれは今日のようにコンビニに行こうとしていた日…こいつの催眠術で眠らされ、石油王と結婚する夢を何回も見させられたのだ。私の結婚を祝福してくれてるのかくれてないのか微妙な連中と会い、複雑な気分にさせられた悪夢の数々!今でも覚えてるぞ!おかげでグリーンと会うのちょっと気まずかったじゃねーかよ、どうしてくれんだ。

ジュンサーさんに追われてるという事は、再犯の確率が非常に高い。あの時はトレーナーの境遇に同情して被害届は出さなかったけど、やはり刑務所に入れなきゃ悪癖は治らないようだな。

今度こそ殴り飛ばす!と私はカビゴンのボールを投げた。しかし奴も、その素早い動きで私の前に来ると、至近距離で振り子を揺らしてくる。催眠術だ。
そうはいくか、と目を閉じようとしたものの、こんな気色の悪い奴を前にして無防備な事などできるはずもなく、結局また、カビゴンの手刀と、私への催眠術が同時に決まり、美人のジュンサーさんが心配そうに駆け寄ってくるのであった。

もう嫌だよ変な夢見るの〜!