好きな夢を見てみたいという気持ちを、誰もが一度は抱いたことがあるように思う。
私の名はレイコ。睡眠下の幻覚より、現実を重視するニートレーナーだ。
そんなギリギリでいつも生きていたいリアルフェイスな私が、強制的に夢の中へと誘われようとしている。
「夢見る新施設…ドリームシャーナ…」
「はい!来月オープン予定です!」
渡されたパンフレットに目を落としながら、意気込む女性と、その横のムシャーナをチラ見した。
突然だが私はガラル地方のチャンピオンである。この間世代交代した。したくはなかったが流れでこうなり、チャンピオンの仕事は意外と幅広い事を思い知らされ、今も軽く絶望している最中だった。
シュートシティに新施設がオープンするというので、打診というか生贄にされた私は、その施設がどんなものなのか、チャンピオン責任で試す事になってしまったのだ。
施設名はドリームシャーナ。簡単に言うと、ムシャーナが客に好きな夢を見せてくれるサービスである。
名前ダセェな…と微妙なセンスに不安を抱きつつも、店まで足を運んで、オーナーと対面しているのが今の状況だった。
この人がムシャーナのトレーナーらしく、普通に人当たりも良さそうなので、最初より不安は拭えているものの、怪しむ気持ちを全て払拭するのは難しい。
確かに好きな夢が見られるならいいよな…需要あると思うよ。どうぞご自由にオープンしてくださいって感じだが、問題は夢の精度である。
シチュエーションを細かく指定できるのかとか、ムシャーナの催眠術を人間に使って危険はないのかとか、そういう事の確認に派遣させられたのだ。再度言うが生贄である。
これって本当にチャンピオンの仕事なの?然るべき機関で脳波のチェックとかするべきではなく?私が健康で帰れるかどうかに全てを賭けていいとは思えねぇ。
どうにも雑さを感じてモヤついていたが、ここまで来た以上とりあえずは試してみる他ない。良さそうだったらちゃんとマクロコスモスに調査してもらおう。行政手続法的なやつに抵触してなかったら何でもいいよもう。自分が一番雑なニートだった。
私とオーナーはテーブルを囲み、まず施設の内容を説明してもらう。ざっくりとしか知らないので、安全性などをしっかり解説していただきたい限りだ。
「見たい夢を見れる…というコンセプトですが、内容はお客様の精神状況に左右されるんです。なので大雑把なジャンル指定だけしてもらう形ですね」
「へー」
すでに広告詐欺感があるな。こっちは見たい夢見れるって聞いたんですけどね。
クレーマー体質を隠せずにいると、メニュー表を出された。ジャンル、と書かれたでかい文字の下に、戦闘、恋愛、異世界転生など様々な語句が並んでいる。なろう小説かな?
「異世界転生を選ぶと、異世界でのその人の理想の姿が夢に反映される感じです」
「なろうじゃん」
「特に何もなければ、ポジティブな内容とかネガティブな内容とか、簡単な指示でも大丈夫ですよ。あとあんまり細かすぎるのは無理ですね」
「じゃあ…宝くじが当たってリングフィットアドベンチャーを買う夢が見たい…とかは無理なんですね」
はい、とオーナーは頷いたあと、なんかささやかですね…と笑われた。いいだろ別に。庶民派なんだから放っといてくれよ。
私の小さな欲望はさておき、完全に希望に沿った夢になるとは限らないってのはわかった。そりゃそうだよな…と納得し、その辺の事前説明がちゃんとあれば大丈夫なんじゃね、と思う。
夢を操作できる方が怖いもんな。だって脳だぞ。何回も聞くけど本当に害はないんだよね?心配すぎる。
脳をいじられたせいで就職したくなったらどうしよう…と危惧するニートだったが、あくまでも意識を導く程度の事なので大丈夫だと念を押された。
「ちなみにムシャーナが得意なジャンルは、恋愛です」
決め顔で言われ、そんな予感はしてたとは言えず黙り込む。だってこれなろうじゃなくて夢小説だからな。
「恋愛を選択していただくと、強く想ってる方とか…お知り合いとか、好きな芸能人なんかが出てくると思います」
「そうですか…」
「じゃあそれを試していただくという事で…」
「ええ…!?」
勝手に決めんのかい!リングフィットアドベンチャーさせろや!
意外と押しが強かったオーナーに促されるまま、私はメルヘンなベッドに横たえられた。もっと違うやつとか…と小声で進言するも笑ってごまかされ、何が何でも夢小説にしてやるという気概を感じ、全てを諦める。
客の希望無視すんなよ。好きな夢見せてくれるんだよね!?夢ってもしかして夢小説の夢の方だったの?じゃあもうリングフィットアドベンチャーの夢小説でいいからやらせてくれよ…!
Switchで遊ぶ間もない私は絶望しながら、近寄ってくるムシャーナに目を細め、最後の最後まで本当に大丈夫なのか心配する。オーナーはゴリ押しするし、無防備に催眠術にかけられるし、心配じゃない方がおかしいだろ。
一時間経っても出てこなかったら警察を呼んでくれ、と誰かに伝言を頼みたくなっていると、私の緊張を察したオーナーが優しく微笑みかけた。
「ではリラックスして…」
大丈夫ですからね、と語りかけながら、ムシャーナの煙を私の顔に纏わせる。するとすぐに瞼が重くなり、即効性に怯えている間にも、意識は薄れていった。
そして、ドリームシャーナによるドリーム小説のようなドリームを、私は見る羽目になるのだった。
「良い夢を、チャンピオン」