さわやか自然百景パシオ

ここはどこだ。

私は誰だ。

いや私はニートなんだが、そのあまりの唐突さに思わずミュウツーの逆襲になってしまっても仕方がないというもの。

さっきまで私は、自室でさわやか自然百景を見ながら眠りにつこうとしていた。空が明るくなってから寝る、それがニートの習性だからだ。
しかし突如として現れた通りぬけフープに、睡魔を完全に奪われてしまう事となる。何も考えられないままどこかに移動させられ、気が付いたら全く見覚えのない場所に立たされていた。

「どこ?マジで」

なんか近くに城…屋敷…?が見えるが…わからん。まぁいきなりどこかに飛ばされる事は主人公ならよくあるし…いやねぇよ。あってたまるかよ。
マジで何なんだよ本当にさぁ…!急なのだけは勘弁してくれないかなぁ…!これがスイカゲームの途中だったらどうしてくれんの?せっかくメロンができたところでこんなところに飛ばされたんじゃ燻って燻って仕方がないよ!

別にさわやか自然百景を見ていただけのニートだった事はさておき、とりあえず現状確認はしておいた。ベルトにボールがある事をチェックしたのち、そのままカビゴンを目の前に出す。いつもの能天気な顔が現れると、こんな状況でも安堵するものだ。

特に問題はなさそうだな…とりあえずポケモンがいれば何とかなるか…。サバイバルしすぎてメンタルが強靭になりつつあるレイコであった。

その時、突然背後から物音と共に、怒声にも近い声が響き渡った。

「誰だ!」

あまりの声量に飛び上がり、即座に声のした方を振り返った。カビゴンを盾にするのも忘れ、目を合わせたその人物は、まずどこから突っ込めばいいのかわからないくらい、それはもうザ・ポケモン界的な風貌をしていた。

な。
なんだ?
なんだ…こいつ…?

いくら何でもゲームの登場人物すぎる…!

驚愕のあまり言葉が出ず、私は硬直した。

やばすぎる。どう考えてもカタギの格好じゃない。

重力に反しすぎた髪型、面積が広すぎるサングラス、邪魔すぎるファー、最大まで改造したホストみたいな服、長すぎる脚、でかすぎる態度、そして宮野真守すぎる声…!

指摘が…指摘が追いつかない…!

もう嫌だ…!絶対ろくな奴じゃない事は確定している…!

「おい!誰だと聞いているだろう!」
「あ、すいません…レイコといいますが…」

そして咄嗟に答えちゃったからもう終わりだ〜!こんな怪しい奴に名乗っちゃったから終わりだよ!

絶望。ここにあるのはそれだけだった。ポケモンがいれば大丈夫だなんて思っていたがそれは間違いだったのだ。常識を遥かに超えた格好をした奴に出会った時、全ての安堵は消え失せるのである。
もはや恐怖しか感じない中、か弱い乙女を見ても尚威圧してくる男に、私の混乱はマックスである。

「何故ここにいる!どうやって忍び込んだのだ!」
「いや…それはこっちの台詞というか…」

しどろもどろになりつつも説明しようとすれば、突然二人の間に、ポケモンが現れた。そいつの姿を見た時、私は一気に点と点が繋がるのを感じた。

「フーパ…!」

そうだ、フーパのリングだ!あの通りぬけフープ!
こいつに連れて来られたんだ!と確信した瞬間、クソデカ宮野真守ボイス男も何かに気付いたらしく、ハッと口を開いたかと思うと、また苛立ちをあらわにして、今度はフーパを睨みつける。

「なるほど…貴様というやつはまたしても…!」

歯痒そうに拳を握り、それを解いたと思ったら、急に大人しくなった。スン…って感じだった。豹変するのも怖ぇよ。何なんだよこいつら。

「…事情は大方わかった。貴様もフーパに連れて来られたバディーズだろう」
「バ…え?」
「そのカビゴンを見れば…大体の実力はわかる」

バディーズって何。バディーズじゃなくてニートなんですけど。
そして大体の実力って何?わかる?無敵のカビゴンなのわかるか本当に?俺にはわからん、ただのメタボ糸目にしか見えん。

急にわかられたり意味不明な事を言われたりで、私だけが置いてけぼりだった。一体全体何なんだ、何の話なんだ。そしてここはどこ!?さわやか自然百景でも見たことない景色なんですけど!?
もう無理〜とカビゴンに縋りつきながら、いざとなったら破壊光線で全てを焼き払おうと考えている私であったが、そんな物騒な事はしなくていいと言わんばかりに、足長男は背を向ける。そして視線だけこちらにやると、実に偉そうな態度で言い放つのだった。

「ついて来い!このライヤー様の屋敷で拾われた事を幸運に思えよ」

誰なんだよ。不幸としか思えねぇよ。
謎のタイミングで名乗ってきたライヤーなる男は、そのまま足早に去ろうとしたため、私は慌てて後を追った。どうやらあのフーパはライヤーのポケモンみたいだが…あいつの差し金で私はここに連れて来られたってこと?でも不審者扱いしてきたから違うのかな…私からしたらお前の方が不審すぎてついていくのを躊躇うくらいなんですけど…でも今は従ってみるしかない。いざとなったらカビゴン達もいるし、結局ポケモンがいれば何とかなるという結論に落ち着いて終わりだな。

こうして見知らぬ土地に連れて来られた私は、ここが人とポケモンがバディーズとして高め合い、勝負を繰り広げている人工島パシオである事を、のちに知らされるのであった。