異世界のパシオ

おかしい。やっぱり全てがおかしい。

あらゆる状況を考え、私は一つしか出なかった結論を、にわかには信じられずにいた。

「…マサラタウンには民家が二軒しかないんだよ」
「究極の過疎地だな」

私の唐突な切り口に、ライヤーは間髪入れず毒を吐いた。全くもって事実なのだが、そんなにはっきり過疎地と言わなくてもいいだろうと初めて思った。もちろん自分では言うけども。確かに何の反論もできないくらい究極の過疎地、それがマサラタウンである。

「しかしオーキド研究所があるだろう」
「そう。グリーンの家とレッドの家とオーキド研究所…マサラにある家屋はその三つだけのはず…」
「だから何が言いたいんだ」

もったいつけるとイラついてくるライヤーを制しながら、私はこの言葉を口にするのを躊躇っていた。なんというかまだ、いまいち信じ切れてないというか、信じたくないというか、今までとはまた違うタイプのやばさに、正直かなり戸惑っている。
でもライヤーが苛立ってきたから早く告げた方が良さそうだと思い、真剣な面持ちで奇怪な言葉を紡いだ。

「だから…リーフの家はないんだよ」

何言ってんだお前…みたいなライヤーの顔に、私も思わず頷いた。本当何言ってんだろうな、自分でもそう思うよ。
でもないからな本当に。マサラタウンは究極の過疎地だよ。


時に、ここはパシオ。数多のバディーズが集まる人工島である。
突如としてここに連れて来られた私は、おおまかな事情をライヤーから聞いた。ライヤーというのはこの島のオーナーで、どっかの国の王子らしいが、まぁそんな事はいいんだ。現状こいつに世話になってるのも事実だが、こいつのバディであるフーパに勝手に連れて来られたのもまた事実なので、愛憎渦巻く関係である。

ここではワールドポケモンマスターズとかいう大会が開催されており、それに出場するために様々な地方からたくさんのトレーナーと相棒のポケモンがやってきていた。もちろん顔見知りもほぼいた。暇なのか?ってくらい全員いた。間違いなく声をかけられるだろうなってレベルにいたというのにも関わらず。

「リーフって…誰?」

私は、グリーンとレッドのそばにいた女の子を、全く存じ上げなかった。しかしグリーンとレッドが存じ上げなかったのは、なんと私の方であったのだ…。

何を言ってるかわかるか?私にはわからんよ。グリーンとレッドが私を他人のように扱うのよこの島では。初めましてみたいな感じで挨拶してくるわけよ。俺はグリーン、私はリーフ、レッドは無言。そうやって自己紹介してくるわけなのよ。一人してない奴いるぞ。

いや知ってるんですけど〜!いやリーフは知らないけど他の二人は知ってるんですけど〜!知ってるけどあっちは私のこと知らないんですけど〜!なんで!?どういうこと!?その女誰よ!その女のハウスはどこなのよ!

ライヤーと共にパシオをうろついていた時に、私はグリーンとレッドとリーフに出会った。最初は初めましてドッキリでも仕掛けられてるのかと思ったよ。でもしばらくパシオで過ごすうちに、それは間違いだと気付いた。
そう、このパシオには、私の事を知っている人間が一人もいないのだ。私だけがいない街状態なのだ。驚愕のあまり、私は引きこもりになった。別にいつもの事だった。

「マジでリーフなんて知らないんだよ私…そんな子マサラにはいなかったんだって…」

特に私を悩ませたのがリーフの存在だった。いや彼女は普通にいい子なんだけど、あまりに自然にレッドとグリーンの横にいるし、挙句二人の幼馴染というではないか。本当にわけがわからなくて、今すぐマサラタウンに行って民家の数を数えたいくらいだった。

「それだけじゃない、この世界のなんとか団的なやつは全部私が壊滅してきたんだけどさ」
「な、なんだその壮大な話は…」

話を聞いているライヤーからすれば、私の頭のおかしさは相当なものだと思う。しかし、彼は意外と優しさを持ち合わせた人間であった。

「まぁ貴様の桁違いの強さでは有り得ない事でもない気はするが…」

いい奴。フォローが手厚い。そんなわけあるか!とか怒鳴られるかと思ったけどそんな事なかった。やっぱ最初にポケモン勝負して圧倒的力量差を見せつけておいたのが効いたかもな。
ライヤー様はこれでも丸くなった方だとみんなに言われてたが、前はどんだけ尖ってたんだろう。ベジータキャラなのかライヤー。お前のことももちろん知らないぞ。どいつもこいつも誰なんだよ。私ですら誰なんだよ。

「でもこのパシオでは違う…ユウキはオダマキ博士の息子じゃないし、アルセウスコスプレおじさんを倒したのはテルだし…え?じゃあNと路チューイベントは発生してない…?なら観覧車は…」

色々考えて止まらなくなった私に、何をぶつぶつ言っているんだとライヤーが怒鳴った。ハッとして現実に戻り、ここから導き出される結論を、私は認めざるを得ない。

「とにかくだ、ここは私のいた世界とは違う…って事で…」

一言で言うとこうなる。

「パラレルワールドなんだよ」

まぁ主人公たるもの、突然パラレルワールドに飛ばされることもあるでしょうね。
いやねぇよ。あってたまるかよ。そりゃアルセウスにヒスイに飛ばされたりセレビィに過去に飛ばされたりした事はあったけど、でもパラレルワールド!?そんなところに飛ばすやつあるか!?ていうか本当にパラレルワールドなんて存在するの!?私はルビサファ世界の人間なの!?それともORAS世界の人間なの!?アドバンスなの!?3DSなの!?私は一体どこから来たの!?

「…どうしよう…これから…本当に…」

絶望が深すぎて思わず悲惨な声が出てしまった。ライヤーも叱咤激励すらできないのか、普通に気まずそうに黙ったので、色々とつらい。ごめん。でももう何もわかんねぇ。引きこもる以外に何もできねぇよ。それはいつもの事。

突然現れた私の身元を照会するために、ライヤーは色々と調べていた。しかし私の実家の住所には家などなく、トレーナーカードは本物だけど私のIDは存在せず、この世の中に、私という人間を公的に証明する証拠が一つも出てこなかった事から、パラレルワールドと結論付けるしかなかった。でないと私がやばい奴になってしまうからだ。
だってそうだろ、パラレルワールド説じゃないとするならば、私はデタラメな住所を言う高性能偽造トレーナーカードを所持した捏造記憶を持つ狂ったニートになってしまうんだぞ。そんなはずない、確かにクソニートだけどそんなやばい奴じゃないはずなんだ私は…!クソニートも相当やばい事には気付かない振りをして、机に突っ伏しながら唸る他なかった。
そんな私の愚図っぷりにイラついてきたのか、ライヤーはとうとうベジータと化し、机を勢いよく叩く。

「ええい鬱陶しい!来たという事は帰れるはずだろうが!それまではこの屋敷にいさせてやるからその辛気臭い態度をどうにかしろ!」

あまりのツンデレ台詞に、私は顔を上げた。叩かれたテーブルの振動がデカすぎて、突っ伏すどころじゃなくなったからだ。いてぇよ。マジでホルモンバランスを心配するほどのヒステリックプリンスだな。

まぁ確かにライヤーに拾われた事はめちゃくちゃ幸運だったよね、それは認めるしかないし素直に感謝するのみよ。だって広くて快適な部屋にタダで住まわせてくれてるし、美味しいご飯も出てくるし、ネトフリ見放題だし、もはや帰らなくてもいい気がしてきたわ。ここを永遠のキャンプ地とするか?
危うく状況に甘んじてしまいそうだったが、ライヤーの言う通り、来れたなら帰れるはずである。フーパの匙加減一つだとは思うが、フーパはライヤーの友達みたいだし、ライヤーと仲良くしておけばそのうち私の帰宅も促してくれるかもしれない。打算的な友情を育もうとするクズニートは、とりあえず叱咤激励してくれたライヤーに頭を下げ、少し楽観的に考える事にするのだった。

「そうだよね…ありがとう。お言葉に甘えて…もう少しここでだらだらさせてもらうよ」
「だらだらはするな!そんなに暇なら次のイベントの手伝いでもさせてやる!来い!」
「ええ〜…」

やっぱり早く帰りたいよぉ〜。パラレルワールドでまで働きたくねぇ〜。