00.序章

吾輩はニートである。
職業はまだない。

否、一生定職に就く気はない。

オッス!オラ、ヤマブキシティのレイコ!ポケモンニートを目指してるんだ!
どうでもいいけど何度目なんだこの挨拶。もう序章とかいらないだろ。つまりニート。ただただニートになりたいのこっちは。それだけ。やけくそじゃねーよ。

あれは今から三年前。
義務教育を終え、カントー1の大都会、ヤマブキシティでだらだらと半ニート生活を送り続けていた私に、研究者である父が、恐ろしい提案をしてきた事が全ての始まりだった。
父の提案が姑息な詐欺であるとも知らず、まんまと挑戦を受けてしまった事で、私の人生は転落の一途を辿る事となる。これこそがのちに後世に語り継がれていく、1996年永久ニート権授与交渉の乱であった。

カントー全域のポケモンの生息状況の記録、加えてカントーに生息している150種全ての姿形をカメラと図鑑におさめるという父からの特命を受け、それを達成することができれば一生ニートでいてもいいという約束を、我々は固く交わしたのだ。
私はこれを鵜呑みにし、山を越え、谷を越え、クソガキに絡まれ、ジムを出禁にされ、変な組織に絡まれ、唯一絡まなかったのはどこぞの半袖トレーナーくらいなもんだってくらい、とにかくいろんな事を経験しカントーを一周した。聞くも涙、語るも涙な恐ろしい旅であったが、全てはニートになるため、全力を懸けて戦ってきたのである。
そしてついにその時は来た。血で血を洗いながら作成した、ポケモン図鑑完成の瞬間である。ニートへの執念で私は見事、前人未到の偉業を成し遂げたのであった。

しかし、現実は非情である。
本当に涙なしでは語れないんだが…150匹+新種1匹を記録してしまった事により、全く意味不明だが、父にオーバーワークだといちゃもんをつけられ、直前に使用した技を選択できなくなってしまった、ではなく、ニート権を剥奪されてしまったわけだ。

こうして思い直してみてもやっぱ本当に意味がわかんねぇな。当時もわからなかったしいまだにわからねぇという事は、やはり父の言い分がイカレてるという事ではないのだろうか。疑問を抱えながらも、父から、データ整理する時間も必要なので数年はニートしてもいい、と許可を得られた私は、譲歩に譲歩を重ね、たったの三年間、ニートとして過ごしてきたわけである。

私はこの三年、何故約束が果たされなかったのか考え続けた。
ノルマを達成できなかった事を責められるならわかる、しかし目標以上の業績を残してどうして罪を問われなくてはならないんだ…?ベストを尽くしたのに、何故ベストを尽くしたのかと言われる意味、どう考えてもわからない。つまりこれは父の屁理屈…ですね?
真実に気付いてしまったが、全ては遅かった。何故なら私は今、旅立ちの準備を済ませ、すでに玄関で靴を履いているのだから。

無垢な子供を騙した父への憎悪の念をリュックに詰め、私は今日ここを旅立つ。三年間だらけて過ごしたハウスダスト舞う自室、埃被ったWindows98、クリアしてないFF8、放送開始したばかりのワンピース…1999年の全てに別れを告げて私は溜息をついた。令和…?知らない子ですね…。

今度は、ジョウト地方とやらに生息するポケモンを記録して来いと命じられているんだが…どこなんだよジョウトって…帰り際にお茶漬け食わされる地方か?そんな怖いところ行きたくねーよ。たこ焼き食べ歩いたり嵐山の紅葉見たり映画村行ったりとかしたくねぇよ…結構楽しそうだな。

これを果たしたら今度こそニートだと約束されているけど、二度ある事は三度あるって言うし、こうなってくるとかなり怪しいもんだぜ。ホウエンとかシンオウとかに飛ばされないよう対策を練る事も考えつつ、見送りもしない薄情な家族に舌打ちしながら、私はわざとでかい声を出して出発した。

「じゃあ行ってくるから!」
「行ってらっしゃーい。あ、ついでにお隣に回覧板持って行ってよ」
「旅立ちの前とは思えない!」

こうして緊張感のない家族に回覧板を預けられながら、私は旅に出たのであった。
いい加減グレるぞ。

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