席次表

コンビニへ行こうと歩いていたら、建物の中に避難してください!と誰かが叫ぶ声が聞こえた。
通行人はざわつき出し、まさか無差別通り魔でも出たのかと私はボールを取り出す。
最近物騒だからな…私もよくストーカー被害に遭うし…誰とは言わないけど。言わないけど電波とかツンデレとかスイクンとかに付きまとわれていた時期もあった。昔の話さ。

私は犯罪を許さない女ことヤマブキシティのレイコ。労働の義務を放棄したニートレーナーである。犯罪者予備軍などと不名誉なことを言われたりもするが、まさに今犯行現場に居合わせた不幸な女だ。
何やら事件でも起きているみたいで、ここは素直に避難しようと足早にコンビニへ向かう。角を曲がればすぐだ。
なんだろう、只事じゃなさそうだけど。まさか北のミサイルじゃないよな?と洒落にならない事を考えながら道を曲がった時、Jアラートより早く私は危機を察知した。方向転換をしたまさにその瞬間、黄色い物体が勢いよく走ってきたのである。私は驚きのあまり足を止めた。人間、びっくりしすぎると咄嗟の判断が困難になるものである。
ワイルドスピード顔負けの何かにぶつかりそうになり、思わず道を開けた。走ってきたのはスリーパーだった。こいつこんなに竣敏なの?と思っていたら、後方から拡声器を持ったジュンサーさんが駆けてきて、何やら叫んでいる。

「スリーパー!止まりなさい!」

こいつか!事件起こしてんの!
まさかスリーパーによる無差別傷害事件でも起きているのかと懸念し、慌てて肉壁ことカビゴンのボールを投げる。しかし、それがまずかったらしい。
不審な行動に私を敵と認識したスリーパーは、カビゴンが出たと同時に、こちらに向かって振り子を揺らした。やばい、と思った時にはもう地面に倒れていて、そのまま微睡みに落ちていく。最後に見たのは、カビゴンが手刀でスリーパーを仕留めたところと、美人のジュンサーが心配げに駆け寄ってくる姿であった。

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マリッジブルーなんて言葉は嘘だ。私は幸せの絶頂にいながら、薬指に嵌った指輪を見つめ、ニヤつきを抑えられない。
私はニート。いや、ニートだったと言うべきか。突然の石油王との出会いが、私の運命を変えた。そう、結婚は女の夢である事に気付いたのである。
今まで何をしてたんだろうな私…あんなに必死で旅をしてニート権を得ようと頑張った日々が、今となっては滑稽に思えてならない。だって石油王と結婚すれば一生楽して暮らせるんだからね。

結婚したら主婦という肩書きを得てしまう事から、私はお一人様にこだわっていた。ニートはニート以外の何者でもあってはならない、そういうプライドがあった。ダイゴみたいにチャンピオン兼御曹司兼ニートなんてのはザコ中のザコ、お前はちっともニートじゃねぇよと格の違いを感じていたけど、そんなプライドは何の意味もないわけだ、圧倒的財力の前には。
私は何カラットかもわからない指輪を触り、これを与えてくれた石油王に想いを馳せる。
働かなくていいと言ってくれた優しい人…この金を自由に使ってくれと、通帳を三冊くれた。あの時から私の恋は走り出した。心臓を鷲掴みにする経済力と包容力、そして顔もイケメ…。
イケメン…?

「どんな顔してたっけ…?」

夫の顔を思い出せないというクソすぎる状況に、私は普通に焦る。
え、マジにどんな顔だ?ていうかどこで知り合ったんだっけ?記憶をどれだけ探っても相手の姿を見出せず、考えるたび思考にモヤがかかるようだった。
幸せの絶頂なのに…どうしてこんな…おかしい。疲れてるんだろうか。いやニートしてんのに疲れるわけねぇだろ。
何かが変だな、と思い始めた時、突然目の前に銀の振り子が現れる。左右に揺れたそれを目で追ったら、婚約者の顔が思い出せない事などどうでもよく思えてきた。

まぁ…いっか。億万長者になるんだし。些細な事など気にならない、それが裕福な人間の持つ余裕である。
そんな事より結婚式の招待者リストまとめなくちゃ。知り合いが多いと大変だぜ…と凝った肩を回す私の後ろで、スリーパーが不敵に微笑んでいるのである。