]

(デートはむつごのクリスマス2016内おそ松verで)

「チビ太さんのおでん美味しかったですね」

「だなあ、こんな真冬にさあ花火なんてめずらしいよなー」

人々が散り散りになっていく中、おそ松さんとわたしは肩を並べて歩く。

「本当に、でも素敵なイベントですよね。この時期に…」

綺麗な花火の余韻がまだ胸に残っていて、空をつい見上げてしまう。真っ暗な空に、吐く息が白く映えてこれも綺麗だと思えた。

「かなたちゃん」

なんだか楽しくて、空に向かって白く残って溶ける吐息を見て遊んでいると、おそ松さんに名を呼ばれた。

「はい?」

おそ松さんの方を向いた途端、わたしは彼に、おそ松さんに、抱き締められてそして、一人になった。

何が起きたのかわからなかった。
おそ松さんはわたしに抱きつくと一言だけ、
「ごめんね」
と言って、そのまま走り去り人混みに消えてしまったから。

ただただ呆然とするしかなく、周りからひそひそ声で『あの子ふられちゃった?』とか『大丈夫?』とか聞こえてきて恥ずかしくなってしまうまでそこにいた。





翌日、占いスペースに出勤すると、オープン前にも関わらず占い師紫蘭さんのところにお客様がいらしていた。
「珍しいー、紫蘭さん。懇意にしている人がいるのかしら」
どんなひとか気にはなったが、自分のところの準備もしなくてはいけないからそのまま自分のブースに入る。

そういえばおそ松さんは昨日から連絡がない。せっかくのクリスマス当日なのに、と考えたらなんか悲しくなった。

わたしが昨日お金出してから様子がおかしくなった。まずかっただろうか?おそ松さんはニートだから、あまり余裕もないだろうに。
でも、デートなのだから、ここはおそ松さんから出してもらうべきだったのかな。お財布手に持ってたし…
『ごめんね』の意味。何に対して『ごめん』なのだろう。



その日は占いどころではなくなってしまった。

占い師、失格だ。幸いにしてお客様はまばらだった。行く末を案じるより、今を楽しもうとする人が多かったということだろう。

「あれ」

ため息をつきながらスペースの通用口から帰るために出た。そうすると、コートを羽織った赤いツナギ姿が目に飛び込む。

「おそ松さん?!」

昨日気まずい別れ方をした彼がいつものようにへらりと笑みを浮かべて立っていた。
昨日と違うのは、思いつめてないこと。すごく暗い表情だったこと。今はすっきりしたというかんじだ。
「かなたちゃんにちょっと話あって」

歩き出す彼の後についてゆくと、赤塚公園のクリスマスイルミネーションの下まで来た。
「かなたちゃんのこと迷子にさせないなんて言ったのにな」
大きく緑や赤や白などキラキラ輝くツリーを見上げながらぽつりと呟いた。
「おれがまいごになってたよー」
いつもの笑顔でそう言うのでわたしは戸惑いを隠せなかった。

「なにか、ありましたか。わたしではお役に立てませんか」
「へへっ、いろいろあって。ごめんな心配かけちまったな」

わたしに知られたくないことなんだろうか。そう思ったら胸の奥でモヤモヤがわきだしてきた。
「ずるいです、おそ松さんは…あの時助けてもらったように、今度はわたしがおそ松さんを助けたいのに」
そうだ。わたしがもう迷わないように導いてあげたい。
「誰に相談したのかは聞きません…でも、わたしもおそ松さんの力になりたいです。今日は、会えてよかった…でもごめんなさい、帰りますね」

モヤモヤが大きくなっておそ松さんを傷つける前に立ち去ることにした。
おそ松さんは待って!と後ろで叫んでいたけれど怖くて振り向けなくて、わたしはそのまま自分の部屋へ向けて夜の街を逃げるように走り出した。

部屋のハンガーにかかったままの、赤いパーカー。
目に入っただけでも悲しくて、ハンガーごとクローゼットに押し込んだ。
「いやだ」
おそ松さんが何の話をしようとしたのか聞く前に逃げ出してしまった。
着替えもしないままベッドの中に潜り込み、わたしは声を上げて泣いた。





ひとしきり泣いて、すっきりしたので少し整理してみることにする。

わたしとおそ松さんは付き合ってはいない。うん。好きだけど。

おそ松さんにも言いたくないことはあるだろう。うん。

あの時の恩返しはしたい。うん。わたしの占いが役に立つならばそれがベスト。

だけど、なんだか解決しちゃったみたい?うん。それはそれで、いいじゃないか。彼の人生だし、わたしはそこにはいない…。

と、ここまで考えても、どこか寂しいと思う気持ちがどうしても拭えなかった。


BACK
ALICE+