XI
夕闇の迫る商店街。年末でみんなバタバタしてる。
おせちのための買い出しをする人たちを尻目に、俺は街の片隅にある占いコーナーへ立ち寄る。
ここは、俺とかなたちゃんが出会った場所。 アイリスという名前で占い師をしている彼女を半ば強引に誘い出したのがきっかけ。
家では今頃大掃除の真っ最中だろう、そう考えたら、帰りたくなくてここにきた。かなたちゃんはまだ出勤していなくて、たまたま外で出会った紫蘭さんのブースにいた。
「その後どーお?」
紫蘭さんは俺を占いのためのテーブルに着かせるとアップルの甘い香りのする紅茶とお菓子を出してくれた。
「あー、悩みすぎてわかんねえっす、もう」
これは本当のことだった。
彼女のために、見合う男になるために、就職する。
あながちまちがってはいないんだろうけど、俺はかなたちゃんにありのままの俺を知ってほしいと思っていた。
「ふうん、怖いのねえ?ありのままの自分をさらけ出して、拒絶されるのが」
紫蘭さんは見透かしてるのか。ゆっくり紅茶を啜ると、柔らかくカップをソーサーの上に戻す。
「いいじゃない、男だもの。当たって砕けろ、よ。あなたがどんな男かなんてわたしにはわからないけど、あなたを受けいれない女はダメ」
俺はかなたちゃんが思ってるほどヒーローじゃない。競馬とパチンコが好きなクズニートだ。
紫蘭さんに追い出されるように店を出ると、すでに外には待ちの列が少しずつできていた。かなたちゃんの札がブースの外にかけられているのを見て、今夜話そうと決めた。クリスマスの日に気まずい別れ方をしたから、なんとなく電話がしにくくて、終わる頃にまた訪ねることにした。
結果は玉砕。
というか、話すらできなかった。
紫蘭さんと話したことで少しスッキリしたからか、顔に出ていたらしい。
悩みがあるなら自分を頼ってほしいみたいな言い方をされて、逃げられた。
明日が年内の営業最終日というチラシを見て、明日、かなたちゃんのブースを訪れることに決めた。
ラストチャンスのような気分だ、これでかなたちゃんに嫌われたら。おしまいだ、俺。
翌日、彼女のブースに現れた俺に目を丸くして、喜ぶでもなく目を合わせようとしないかなたちゃん。
「俺、お客さんなのになにそれ」
我ながらずるいと思う。でも、こうでもしないと彼女は向き合ってくれないだろう。
「すみません、今日は、どうして」
「どうしてって、悩みがあるから来たんだよ」
ぎこちない会話。発端は俺が不甲斐ないせいで彼女に気を使わせてしまったことだ。自分のせいで自分の思い通りに行かなかったのにイラついて、彼女をほったらかして。
タロットカードを手にする彼女を制し、
「その前に俺の話聞いて…」
そうして話し始めた。
「俺さ、きっとかなたちゃんが思ってるより酷い男だよ。仕事したくなくてフラフラして、パチンコと競馬に興じて、ここに来た金だって親からもらった小遣いでさ」
かなたちゃんは今まで見たことのないくらいの真剣な顔で俺を見ていた。
「ガキの頃会った俺とは大違いで、これから先きっとびっくりすると思うけど、俺のこと、隣で見てて欲しいんだ」
かなたちゃんの唇がわずかに動いて、何かを言いたそうにしたけれど、すぐに口は閉じられて話の続きをせがんでいるような気がしたので続ける。
「かなたちゃんのことが、好きなんだ。自分のことひた隠しにしてても、あの思い出の中と違ってニートでも付き合ってくれた君が好きなんだ」
かなたちゃんの目から一筋の涙が流れて、テーブルを立って俺の方に回って来て、思わず立ち上がった俺に抱きついてきた。俺の手は宙をさまよって、彼女の背中に落ち着く。
「そうだったんですね…わたしおそ松さんが仕事しても、ニートでも、どっちでも好きになってました」
ほ?ん?ちょっと待って、それって。
「えっ、かなたちゃん??今、なんて」
「両想いだったんですね、わたしたち」
俺の腕の中で彼女は微笑んだ。
「嬉しいです。おそ松さんのこと、聞けたから。ずっと、おそ松さんはわたしの中のヒーローですから」
心の中でガッツポーズしたのは言うまでもなく、家に帰ってからも弟たちに気持ち悪がられた。
BACK