V

帰り支度をすませて店を出ると向かいのカフェの前にチョロ松さんとあともうひとり誰かがいた。

「チョロ松さん!と…??」
一緒にいた人もおそ松さん、チョロ松さんとなんだか似ている。けれど、この人はおそ松さんを可愛らしくした感じだ。
「来た来た。コレ、六男のトド松ね」
と、チョロ松さんが紹介してくれたのだが、トド松さんはプンスコと頬を膨らませて怒る。
「コレって何!コレはないよね!もう!……へへ、初めまして、末弟のトド松です!」
「は、初めまして…わたし、アイリスです。本名は星野かなたと言います」
いつまでもアイリス呼びは嫌だと感じたので本名を名乗っておいた。

そのままチョロ松さんトド松さんについて行くと、やがて赤提灯にハイブリットおでんと書かれた立派な屋台が見えてくる。
あ。
不思議と、心臓が高鳴りを覚えた。
のれんの下に見える、赤、青、紫、黄色。
赤はきっとおそ松さんだ。
「うぉらクソ長男、来たぞー」
チョロ松さんがのれんの下に見える赤に向かって蹴りを入れて行く。
「痛い痛い痛い!チョロちゃんいつからそんな酷い子になったのっ?!」
のれんを捲りあげたおそ松さんは、チョロ松さんを見る目の端でわたしを捉えたのだろう。驚いたようにわたしに顔を向けてそして。
「かなたちゃん!?来てくれるとか思ってなかった、やっベー嬉しいー!」
喜びを爆発させている様を見ていたら恥ずかしくなってしまった。けど、悪い気はしなかった。
「ささ、座ってー。おらカラ松空けろー」
隣にいた青いパーカー、カラ松さんが仕方ないとずれて、おそ松さんとの間にスペースがあく。そしておそ松さんに導かれるままにそこに座った。
目の前にはいい匂いのする湯気が立ち上る、おでん。
べらんめぇ口調の大将が適当に選んで盛ってくれた皿をわたしの前に置く。
「チビ太のおでんめっちゃ美味いから!オススメ!」
おそ松さんが笑顔ですすめてくれて、わたしは一つの串を口に運んだ。
「ん、おいひ…!!最高ですう」
「そっか、よかったぜ!さぁどんどん食べな!」
大将…チビ太さんがわたしの空いた皿をとって、また先ほどとは違うネタをよそってくれる。
「チビ太ァ、あんま食わせんなー」
おそ松さんがチビ太さんに話しかけた。
「うるせえやい、美味しそうに食べてくれる人に久しぶりに会ったからよ、いいじゃねえかバーロィ」
「俺はチビ太のおでん世界一美味いって思ってるけど?」
「アァ?!てめえらはツケ全部払ってから言えやい」
ツケ?お金払ってないのか…会話を聞きながらふと考えていたが、おそ松さんとチビ太さんのやりとりが楽しかったのでそのこともすっかり頭から消えていた。
「おそ松さんとチビ太さん仲いいんですね」
おそ松さんとチビ太さんは、わたしの顔を見るや、なんだか照れくさそうな顔をお互い見せた。
「ただ単に腐れ縁ってやつだから」
照れ隠しかおそ松さんがぼそりと呟くようにビールのジョッキを傾けた。


わいわい、と楽しい時間はあっという間で、おそ松さんはすっかりできあがってしまっていた。
「僕が送って行くよ」
近いし帰れる、と言うのに、夜だからとチョロ松さんが付いてきてくれた。
「すみませんねぇうちの長男が」
「いいえ、楽しかったですよ?またご一緒できると嬉しいです」
「そ、そうですね!ぜひっ!」
バッグに入れていた、スペース用の名刺の裏に、おそ松さんに渡したのと同じ様に本名と連絡先を書いて渡した。
「お、おお…!」
受け取った名刺をそれはそれは大事そうにパーカーのポケットに入れたチョロ松さんは鼻歌まじりに再び歩き出す。
おそ松兄さん、今日ずーっと、うちの電話の受話器とったり置いたりしてて、母に怒られてました」
「へえ?どうしてそんなこと…」
「あなたからもらった名刺を手にして、うろうろしてましたからねー」
「あっ…」

連絡する!という声が蘇った。

きっと、わたしに電話をかけようとしてくれていたんだ。そう思いたい。
「おそ松さんに伝えてください、いつでも遠慮なくかけてください、わたし待ってます、って」


その翌日。わたしの携帯が鳴った。知らない番号だ。
「はい、星野です」
「あの!おれっ、松野おそ松です!」
どきりと心臓が跳ねた。
「かなたちゃんと今度はサシで飲みに行きたいと思ってさ」


赤提灯とお酒が再び、わたしたちをつなぐ。

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