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「星野さん今日はゴキゲンだね」

普段のバイト先、青いコンビニのバックヤードで同僚から言われた言葉。占いは夜だけで、日中はコンビニでクルーとしてバイトしているのです。

それはそうだ、だって今日は、おそ松さんと飲む日だから。

「明日わたし休みだし、知り合いが飲みに行こうってさそってくれたんです」
「へえ。知り合いってどんな人?」
「前向きで、明るくて…いい人です!あ、お客様」
レジに人影が見えたのでカウンターに出た。

「いらっしゃいま…、あっ?」

おそ松さんにまた似た人、そう、六つ子さんの一人だ。彼もまた、わたしがわかったようでぺこりと頭だけ縦に動かした。

紫のパーカー。たしか。

「一松さん、です、よね…」
「うん。ああ、覚えてたんだ…いいのに。こんなゴミ、知らないフリしても」

いやいやそうはいきません、仮にも先日飲んだ仲ですし。や、そこまで仲良いわけじゃないけれど。
カウンターに置いてあったいくつかの猫缶をレジに通す。
「おそ松兄さんと、行くの」
猫缶をレジ袋に入れていると、一松さんがこそりと話しかけてきた。
聞こえてたんだな、と少し恥ずかしく思えて、ただ、
「う、うん…」
としか答えられなかった。

「ふうん、そ。兄さん、今すごい浮かれて資金稼ぎに行ってるから。万が一の時はよろしく」
と言い残して、カサカサとガチャガチャとやややかましく音をさせながらコンビニを出て行った。
「ありがとうございました、またお越しくださいませ〜…」

資金稼ぎって、なんなんだ。
万が一の時はよろしくってどういう意味。
一松さんから示された謎に頭をひねりながらも、時間はあっという間に仕事上がり。


急いで家に帰って、シャワー浴びて、着替えて…
わたしの占いはお休みすることを昨日伝えてあるし。
これってまるでデートに行くみたい?!
そう考えたら、頭が爆発しそうになった。
まだ時間もあるし、少し頭を落ち着かせた後、タロットカードの束を手にする。

あまり大掛かりなスプレッド(展開方法)はとれないので、今回は一枚引き…
ゆっくり、ゆっくりカードをまぜて。
「よし」
自分がいいと思うところで止めて、一つにまとめて、一枚を選ぶ。直感が大事。

「え」

選んだカードは、『死神』の正位置。

このカードは終わりを示し、一見不吉なカードだ。
けれど、終わりがあれば必ず新しい始まりがあるということ…。
もし、これでおそ松さんと何かあってもうお会いすることがないとしても。
何か新しいものが始まるんだ。そしてそれはきっと、今までの自分を変えられるような何かなんだ。
でもおそ松さんと会うの、怖いなぁ…
なんかやらかすのかな…はっ!
「おお、いけない!前向き前向き…!」
時計を見るとそろそろ時間。慌ててカードを元どおりにした後、家をでた。

キャメルのガウチョパンツの下にタイツをはいて、上はVネックのニット。カーディガンを引っ掛けて歩く。
待ち合わせは赤塚酒場の赤提灯だ。
その目印が見えてきたところで、後ろからわたしを呼ぶ声がした。

「かなたちゃーん!」

たたたっ、と軽快な靴音をさせて走ってきたのはおそ松さん。
「おそ松さん、ちょうどでしたか」
「おうっ、時間間に合った?さすがに待たせられねぇしな」
へへっ、と鼻の下をこする仕草をした。


あれ?
なんだろ、あの記憶と、被る…。

『お兄ちゃんが探してやるから!』

『もう迷子になるなよ!』

『じゃあな!』

鼻の下をこすって、得意そうに笑って…

まさか、まさか。

ドキドキしてしまって、まともにおそ松さんが見れなくなってる。


「かなたちゃん?」
あっ、しまった!
「ごめんなさい、よし、中入りましょう!飲むぞー!」
「おっ!いいね〜!」
うまく笑えてたかな?
おそ松さんが、あの時のお兄ちゃんだったらどんなに嬉しいだろう。

「2人ね!」
「あいよっ!」
カウンターからホールから元気な声がひびきわたり、わたしたちは奥の方に空いたテーブル席に案内された。

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