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占いスペースでの仕事も終わって、ほの暗い夜道を歩いていると電話が鳴った。画面を見るとおそ松さんから。
「もしもし?」
『かなたちゃん、おそ松だけど』
「ええ、どうしました?」
人一人歩いていない道で、おそ松さんからの電話はとても心強い。
「うん、よかったらだけど、今度の休みの日、その、」
その、えーと、と繰り返すので、とてもいいにくい用件なのかと少し不安に感じたその時、耳にした言葉にどきりとした。
『あー、どこか、おれと遊びにいかないかな、と』
遊びに?わたしとおそ松さんと?
「それは、ご兄弟も一緒とか…」
『え!いや、あいつらは、用事あるし!おれと二人じゃ…ダメかな』
「そんなことはありません!嬉しい、です。デート、みたいで」
『デ、ート、…だな!あー、よかったあ』
機械を通して少しくぐもったような、照れたような声が聞こえる。
シフトなどを見てからまた連絡するということにして切ろうとすると、おそ松さんから
『今どこ?外?』
ときた。
「今占いスペース終わって帰ってます。人歩いてなくて寂しかったけど、おそ松さんから電話来たから、なんだかホッとしてます」
と素直な感想を述べると、
『おれ、今からかなたちゃん会いに行ってもいい?』
と耳を疑うような言葉が聞こえて来た。
「そんな、おそ松さんちからは遠いですよ、もう」
と断ろうとするけれど、おそ松さんは行く、と言って場所を教えて欲しいとしつこく聞いて来た。
このままでは電話切れないし、おそ松さんにお会いできるならと、現在地を教える。大体の場所を把握したようで、寂しいかもだけど我慢してね、と電話は切れた。
向こうの方にかすかにコンビニの光が見えるが、さすがに移動がしにくいので我慢することにする。やがてタッ、タッと足音が聞こえて、走ってくる人の姿を確認できた。
「おーいっ」
シンとした街並みに響くような声でおそ松さんが現れた。
「ごめんな、おれのわがままで待たせちゃって」
走って来たせいでハァハァ、と荒い息をしているので、しばらくそこで立ち止まって息を整える。
「さすがにもう空気が冷たいですし、風邪ひかないようにしてくださいね」
「ああ、気をつけるわ」
そうして二人肩を並べて歩き出す。
しばらくお互い黙って歩くばかりだったけれど、それを破ったのはおそ松さんだった。
「ねえ」
はい、と返事をするとおそ松さんはピタリと足を止める。
「あのさ、その、…おれ、小さい時迷子になったことあるんだ」
顔は俯いたままでよく見えない。
「あの時、同じく迷子になった女の子のことを今日思い出してさ、すっげー懐かしかった」
迷子。その言葉はわたしの心に染み込んでくるようだった。わたしも迷子になったことあるから。
「迷子になったその子の親一緒に探し回ってて、結局おれが迷子になったってオチなんだけど」
顔を上げてくしゃりと笑って再び歩き出す。
今度はわたしが動けない番だった。迷子になった女の子の親探し回った??それって、それって。
「おにいちゃんありがとう、って。ずっと手を振って…って、かなたちゃん?」
立ち止まったままのわたしに気づいて彼は再び歩みを止める。
「それは…その子は、いったい」
声に出すのがやっとだった。
「うん、お母さんが、かなた、って呼んでたんだ」
足が震えだす。こんなことってあるのかな。
「おそ松さん、あの時の、おにいちゃん…赤い色の服、松のマーク…」
おそ松さんの顔が、そうだよ!と言わんばかりの笑顔になる。
「今日コンビニで、おれを見た時のかなたちゃんの顔が、あの時の子と同じ顔だったんだ、だから」
嘘、嘘。もしこれは事実と違ったとしても、わたしの記憶のおにいちゃんはおそ松さんに書き換わっているだろう。
「だから、おれ、決めた」
「えっ?」
「かなたちゃんにおれのこと好きになってもらえるようになるから。おれ、もうかなたちゃんのこと迷子になんかさせねぇから、だから、その」
その、の後がうまく聞き取れず聞き返したけれど、もう教えてはくれずにまた今度な!と笑った。
「さ、行こうぜ。ますます冷えちまうし」
やはり、あの時のおにいちゃんだ、おそ松さん。
秋の空気は冷たいけど、心はほんのり暖かくなっていた。
「クリスマスデートとか、いいよな」
クリスマス。街中はすっかり赤と緑、色とりどりのイルミネーションに彩られていた。その中をおそ松さんと二人で歩くなんて、想像しただけでもう幸せ。
「おそ松さん、クリスマスは」
「おれ、全然予定ないし。かなたちゃんさえ良ければ」
「クリスマスは、占いスペースが」
ああ、とおそ松さんが寂しそうに声をあげる。
「終わってからでいいよ。クリスマス、かなたちゃんと過ごしたいんだー」
ね、いいよね、と嬉しそうな顔をするおそ松さんを見てたら断れない。いや、断る気はないけど。
クリスマスデートはこうして決まったのでした。
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