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かなたちゃんが働いているという青いコンビニは、ここから一番近い場所にあるという。うちの近所にもいくつかの別なコンビニがあるから、そこまではなかなか足が向かないのが実情だった。
一松がたまたま行って彼女に会わなければ、いつまでたっても彼女が占い以外にバイトしてるなんて知る機会はまだ先だったんだろうと思う。
彼女は占い師で、おれのことは単なる客で、気まぐれに誘いに乗ってくれて一緒に酒飲んだだけの関係。
だけど初めて会った時からすげえ気になってて、チビ太んとこや赤塚酒場でサシ飲みした時とかほんと嬉しかった。あの夜にキスしちまったのも、可愛くてたまらなかったから。
なのにその前に酔い潰れて連れ帰る時、おれの背中で『おにいちゃん』と口にしたあの瞬間、幼い記憶が蘇った。
スーパーで買い物について行った俺が見つけた、泣いている女の子。
『おにいちゃん』
うちは男兄弟で、ふだんトト子ちゃん以外には接しない女の子にそう呼ばれたことがとても新鮮で、張り切って探すうちに自分も迷子になってしまったことに気がついたけど。
でも親を見つけた時のあの子の笑顔がとても印象的で、未だに覚えている。
彼女は、あの子に似ていた。
『おそ松さん、来てくださったんですか』
さっき見た光景は、幼いあの時に見せてくれた笑顔と、同じだったんだ。
店を出てその足で向かったのは、商店街。
その一角に、おれとかなたちゃんが出会った場所はある。
まだ開店したばかりとあって人はまばらだ。かなたちゃん…アイリスの名前はまだ出ていないのを確認してホッとする。今頃はまだコンビニで仕事中のはずだし。
なぜかって、おれは今から、自分の未来を占ってもらうからだ。
おれは長男だ。一生親のスネかじって生きていきたいけど、このままじゃダメだって本当はわかってんだよ。就職して、きちんと奥さんになる人とその子と養う。奥さんになる人が、かなたちゃんなのか他の女なのかそれはおれにはわかんないけどさ。
人生は人が作るもんじゃない、自分で作るんだろ?
だったらおもしろおかしく、振り返ればいい生き方したなって思いたい。
何人か名前が出ている中から、『紫蘭』という占い師を選んで部屋に入る。
「はーい、どうぞ」
いかにもベテランという感じのおばさんがそこにいた。
「あら、あなた…」
目があってすぐにそう言われたので、顔に何か出てるのかと緊張してしまったが、それきりで紫蘭さんはニコリとしたままタロットカードを手にした。
かなたちゃんが使っているカードとは様相が全く違っていて、どんなカードなのかと興味が湧いてしまった。そんなおれの心中を察してか、紫蘭さんは言った。
「これはね、真実を見通すカードなのよ。さ、あなたのお悩みは何かしら?」
この人の目を見ていると、不思議なほどにフワフワした気分になってしまう。
「あー、あの、おれ、これからの人生どうなんのかな、って」
紫蘭さんは、うん、うん、と頷くと口を開いた。
「それって、かなり漠然としていて重たいテーマね。どうしてそんなことを?あなたまだ若いでしょ」
「やー、いままでおれって、フラフラしてて仕事してなかったけど、その…好きな子ができまして」
まさか相手がこの占いスペースにいるアイリスさんだとはとても言えないけど、どうしてそういうことを考え始めたのか、自分の中で整理つけるためにも話をした。
「あらあら!」
紫蘭さんはニッコリと笑うと、
「じゃあ、要するにその女の子と出会ったことで、自分はこのままでいいのかとか考えちゃった訳?」
「です。これからどういう人生あゆんでいくんだろ、おれ。って」
その通りなので大きく頷く。
すると紫蘭さんは、
「なるほどねえ。未来は視えるけど、そこにあるものはあなたの行動一つで変われるわ。覚えておいてね。じゃあ占ってみるわね」
おれに深呼吸するように言い、おれが深呼吸してる間に手元のカードをぐしゃぐしゃにして混ぜ始めた。
その次におれにも混ぜるように言い、雑念を取り払ってゆっくり自分のいいタイミングで止めてね、とアドバイスをくれた。
「心の中で、こうなったらいいなとか思っちゃったら、それがそのまま結果に出ちゃうから気をつけてね」
そう言って紫蘭さんは、おれがゆっくり手を動かすのをただ見ていた。
おれが手を止めて、OKです、というと、そのままカードの束を自分の手元に引きよせ、まとめて3つの束に分けてまた戻して、と作業してゆき、手際よくテーブルの上にカードを並べていった。
「うん…このままではダメね。最終的に途方に暮れちゃうかも」
「まじか…」
さすがにニートのまんまじゃあよくねえかと考える。
「でも、占いってのはね、結果がどうあれよりよい道を歩むための道しるべだから」
と言ってテーブルの上に並んでいるカードの中の一つを指差した。
「ここにあるカードはアドバイスのカードなの。他にあるカードと合わせて見てみるわ」
そうしておれは紫蘭さんにもらったたくさんのアドバイスを胸に家に帰った。(かなたさんには会わなかった)
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