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「みんなぁー!今日もお仕置きされたいかー!」
「されたーい!」
なんなのお仕置きって。
わけわかんない。
でもこういうのがウケてる。
ステージの上で歌って、踊って。
男の人たちが私たちの歌で楽しんでくれる。
「ホノカー!」
「カレンー!」
口々に私たち二人の名を呼ばれて、笑顔振りまいて。ああ、カレンは小悪魔設定だからツンデレモードね。
私は天使ちゃん設定なの、だから可愛くしてなきゃいけないのだけど。
もう、アイドル、疲れたよ。
そんな私の唯一の癒しは、猫。
アパートはペット禁止だし、実際には飼うことが難しい仕事してるから、野良猫がたむろしている場所に時々足を運んでは眺めているだけ。
他にも誰かが餌をやったりしてるんだろう、時々猫缶を見かける。
「ミャオゥ」
グレーのハチワレにゃんこが擦り寄ってくる。
「ごめんねぇ、今日はなにもないのよ」
申し訳なく思いつつ、抱き上げて赤ちゃんのようにあやす。
「…結婚したいなァ」
素敵な旦那様と、かわいい子供に囲まれて、幸せに暮らしたい。
現実はそんな訳にはいかないのくらい知ってる。でも夢見るくらいいいよね。
アイドル始めた頃は、みんなにちやほやされるのが嬉しかった。いっぱいプレゼントもらったり、握手会で応援してます!とか…まあこれはいまも言われるけれど…
でも、どれだけプレゼントもらったり、応援されても、満たされない思いがどんどん大きくなっているんだ。
猫を眺めてどれだけ経っただろう。
あたりはすっかり暗くなって、元々暗いこの場所も闇が深まる。
「レッスン間に合わなくなっちゃう」
今日は、橋本にゃーちゃんとの合同ライブのレッスンだ。
デビューは同期だけど、にゃーちゃんの方が人気も知名度も上。悔しいけど、実力なんだろうな。
野良猫のいる路地裏から大通りに出ようとしたところで、誰かとすれ違い、肩をぶつけた。
「あ、すみません」
「…すいません」
相手はパーカーにジャージ姿、猫背の男で、そのまま私がいま出てきた路地裏へ入っていった。
なんだか気になって、再び路地裏へ踏み込むと、さっきの猫背の男が手に持ったビニール袋から猫缶やらカリカリを皿に取り出して、猫たちに食べさせていた。
(この人…飼い主なのかな…こんなにたくさん?)
猫を見ているその目が、なんだか優しそうで印象深い。
私も今度来るときおやつ買ってきてあげようかなあと考えながら、レッスン場に急いだ。
レッスン場には、もうにゃーちゃんもカレンも来ていた。
「ごめん遅くなった!」
「先生まだだから急いでー」
「うん」
レッスン着に着替えて先生が来るまでは3人で打ち合わせをする。
同期とはいえ、一緒にライブをやるのは初だから、結構気合いが入る。いいライブが出来そう。
「3人でアンジェリクの曲歌って、にゃーの曲も歌おうね」
とにゃーちゃんが言うとカレンが
「もちろん。あ、にゃーの衣装、ホノカが着るのもアリだよねえ?」
と、何か企んでるかのような笑みを浮かべる。
「やだ!にゃーちゃんの衣装似合わないって!」
「あはは!冗談だしー」
「もう!カレン!」
先生が入ってきて、3人で振りを合わせる。
先生は厳しいけど、時々冗談を言っては笑わせてくれるから気が楽。
「あー…終わったあ」
「疲れたねぇ」
レッスンが終わって外に出ると、月が高く昇っていた。
「じゃあまた明日〜」
「気をつけて帰ろうねー」
3人途中までで別れて歩き出す。
わたしは再びあの路地裏に寄ってみようと考えた。
「あの人はもういないよな…」
猫たちが薄い月明りの下で目を光らせているだけだった。
「ニャー」
「お、よしよし…」
目が暗闇に慣れてきて、猫たちが集まってくるのもわかる。やっぱり今度はおやつ買おう。
そう思った時だった。
「フーッ!!」
「ギニャアア!!」
猫たちがにわかに騒ぎ出す。
何事かと思って慌てて立つと、懐中電灯を持ってわたしを照らし出す何者かがいた。
「ようやく発見、ホノカちゃん!」
「だ、誰?!」
身の危険を感じ、入った方とは逆の道を走る。
が、ゴミが散乱していてうまく走れなくて、すぐ追いつかれてしまった。
「逃げなくてもいいじゃん、たまにライブ行くし握手会だって、顔覚えてくれたよねー僕のこと」
そんなのいちいち覚えてないよ!
「く、暗いから、顔、わかりません!」
「えー?じゃあ見せてあげるよ」
私の腕を掴んで、ぐっと顔を近づけてくるから余計暗い。
目だけ光って、怖くて体が震えて思わず涙も出てしまう。
「あれえ?なーんで泣いてんの?僕優しいよー?」
怖い!怖いよ!
「ねえホノカちゃん、僕と結婚してくれるっていったのにさ、指輪送り返してきたよ?」
「ひっ…!し、知らない」
「ずーるーいよねー?男を弄ぶってどういうことか教えてやろーか」
ハァハァと荒く息をする音しか聞こえない。
どうしたら逃げられるか考えても頭は回らなかったけど、かすかに違う足音のようなものが聞こえてきた。とりあえず声をあげてみた。
「助けて…!誰か!」
「こんな暗いところ誰も来ないってー。…え?ぎゃああああああ!!」
男の人がさけび声を上げてばたりと倒れた。
そこで見たものは。
6つの顔が宙に浮かび上がるようにしてそこにあった。
「きゃああああっ?!」
「おいっ?!大丈夫?!ごめん!」
あまりにも驚きすぎて腰を抜かしてしまって、意識が遠のく中で、暖かいものに包まれる感覚を覚えた。
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