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それは銭湯から帰ってきた時だった。
裏庭で猫がうるさく鳴いていると母さんが言っていて、確かに近所迷惑なほどだった。
鎮めようと顔を出すと、それはあの路地裏でいつもいる猫たち。
僕を見るや猫たちはめいめいに散ってゆき、ある程度のところで僕を振り向いて、まるでついて来いと言わんばかりに鳴くので、仕方なくついていくことにしたら、
「一松、手貸そうか」
珍しくおそ松兄さん以下兄弟たちもついてきた。
猫たちの只ならぬ様子がわかったんだろうか。
やがてあの路地裏に着き、奥へ足を進めると、男の声と、女の子の怯えるような声が聞こえてきた。
(おい、番号な。1)
2、3、4、5、6。
おそ松兄さんが小さな声で号令をかけ、みんなで番号を言っていく。
(いいか、顔を懐中電灯で照らせよ。みんな持ってるだろ。後ろから近づいて、びっくりさせてやろーぜ)
(襲われたらどうすんの!?)
(バカ、トド松怯むな。相手はどうせ女のことしか考えてねえよ)
さすがおそ松兄さんというかなんというか。こういう悪知恵は働く。
かくして、作戦は成功したが、女の子までも失神させてしまうことにも成功した。
仕方がないので、十四松に女の子を抱えさせて家へ戻った。男はもちろん放置。猫たちにたっぷり引っ掻かせたり噛ませたりしてやった。
母さんが慌てて客間に布団を敷いてくれて、そこに横たわらせる。
女の子は、まるで天使のような綺麗な寝顔をしていたんだ。
なんであんなところにいたんだろう。
そういえば、夕方にすれ違った気がする。肩をぶつけたような記憶。
猫たちの様子からして、この子も、あの路地裏の常連なんだろうか。
「ねこ…好きなのかな」
布団の傍で、体育座りで彼女を見ていたら、ふと彼女の睫毛が小さく震えた。
「気が、ついた。よかった」
彼女は不思議そうにあたりを見回す。
「ここ、おれの家…。きみを脅かすつもりなかった…ごめん」
しばらく目線は彷徨ったのち、おれを捉えると彼女はゆるゆると笑顔をつくって
「助けてくださって、ありがとうございます」
と頭を下げた。
落ち着いてくると、彼女の笑顔がだんだん増えてきた。
今は2階のおれらの部屋。彼女がみんなに礼を言いたいと言うのでつれてきた。
「6つ子さんて本当にいるんですねぇ…!」
「でっしょー?みんなびっくりして振り向くんだよなー。でもさっきは役に立ってよかったぜー。あの驚きよう」
おそ松兄さんは、かなりテンションが上がってるらしく、食い気味に話す。
チョロ松兄さんなんかはもうカチコチに固まっている。
「あはっ、本当に助かりました。…で、あの、お礼したいんですけど…」
「はいはーい!ね、それならline交換しない?」
彼女の言葉を遮って、トド松がスマホをフルフルさせながら言う。しかし。
「ごめんなさい…プライベートは、ちょっと」
「プライベートぉ?」
「わたし、これでも、一応アイドル、やってまして…」
かなりの沈黙の後、静寂を破ったのは近所迷惑も甚だしいチョロ松兄さんの声だった。
「アイドル?!え?ちょっと待って待って!!もしかして!」
本棚に駆け寄って、一冊の雑誌を手に戻ってきた。僕らはチョロ松兄さんの手元に注目する。
「あった…!きみ、ホノカちゃん?!アンジェリクの!今度にゃーちゃんとライブやるんだよね!」
「はい、アイドルユニット アンジェリク、ヴァイス担当 野宮ほのかです」
雑誌には、公演で歌う様子が載っていた。
今ここにいる人からは想像つかないけど、白い衣装に身を包み、汗をかきながら笑顔でマイクを持って踊る姿があった。
「あの、よかったらですが、その、橋本にゃーちゃんとの合同ライブを見にいらっしゃいませんか?私皆さんのためにも頑張りますから」
「行くよ!僕はチケット持ってるし必ず!」
チョロ松兄さんの目はすでにハートマークになっている。
「ありがとうございます、お手持ちのチケット、にゃーちゃんにサイン入れてもらうようにお願いしましょうか?明日また会うし」
「本当に?!一生の宝にするぞー!」
こうして、おれらは6人揃って、トト子ちゃん以来の、アイドルのライブに行くことになった。
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