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カーテンを開けると柔らかな陽射しが差し込んでくる。今日は久々の休み、洗濯日和だ。
「こんないい天気なら、久しぶりに公園のベンチで本読むのもいいかもね。人少ないといいけど…」
世間的にも休日なので、人が多いと雑音が気になって本読むどころではなくなる。
「うるさいようなら図書館でもいっか」
洗濯機から終了のアラームが鳴り、バスケットに洗濯物を取り出してハンガーにかけて行く。
仕事はアイドル。野宮ほのかとアンジェリクというユニットを組んでいる。
だいたいイメージ上黒い服を着ることが多いのだけど、本当はわたしは青色が好きで。
青と言ってもいろいろあるけど、抜けるような青空の色が好き。
だからきっと、こんな天気のいい今日はいい日になりそうなそんな気がする。
洗濯物を片付けた後掃除をして、公園へ一冊の本を片手に出かけた。
公園の真ん中の池に架かる橋のたもとでなんか変なサングラスのキザ男が立っているのが見えたけど、気にしないでおく。ああいうのには関わらないのが一番だ。
今日のお供は『陰陽師』。
ページを開けば平安時代の風景がそこには広がって、自分がもうそこにいるような感覚にすら陥る。
登場人物の掛け合いも好きだ。そしてこの文章もとても好き。
そうして気がつけば1時間があっという間に経過していた。
喉の渇きを覚えたので、カフェにでも寄ろうと本を閉じ、顔を上げると、来るときに見たサングラスのキザ男が目の前にいてびっくりした。
ヒュッ、とかすかに喉がなり、気付いたのかその男と目が合う。
サングラスの下からキリリとした目を覗かせていたそいつは、わたしの手にしていた本に目を止めた。
「懐かしいな。『陰陽師』か」
キザ男のくせに知ってるのかと少し驚きもしたけれど、何度かドラマや映画にもなっているから知って当然かと思い直す。いや、この男は懐かしいなと言ったのか。
「驚かせたか、すまない。高校時代にこの本をもとに劇を上演した記憶があるものでな」
センスの悪そうなキザ男なのに、話す言葉はすごく優しげで、なんだかこの変な男に興味が湧いてしまったのでした。
「松野カラ松だ」
男はそう名乗った。
「桜庭可憐よ、よろしくね」
カラ松は携帯を持っていないというので、家の電話番号を教えてもらってその場は別れたが、その日の夜に早速電話がかかって来た。
『よかった、ちゃんと本物だったな』
どうやら、わたしが嘘の番号を書いたと思ったんだろう。まあ、いきなり見も知らぬ怪しいやつと番号やり取りするなんて奇特以外の何者でもない。
アイドルとしてならこんなことはNGなのだけど、正体は明かさないつもりだ。純粋に桜庭可憐として、彼と話してみたい、彼のことを知りたいと思ったから教えた。
「大丈夫ですよ。嘘はナシですから」