▼ ▲ ▼


初めて会って数日経った。再び彼と会う日。
待ち合わせはあの公園の池にかかる橋。
あのたもとでカラ松は待っていた。
「可憐」
相変わらずキザ男だ、かけたサングラスをカチャリとはずして出迎えてくれた。
「今日はカラ松ガールはみつかった?」
「はは、ここにいるじゃないか」
指をピストルの形にしてわたしにむけてバン、と撃った。
「そう思うなら、その服やめてね。似合わない」
上はまだいい、シャツにドクロマークのはいったライダース。だけどパンツはなぜか青いスパンコールでギラギラ輝いていた。
聞けばなんて傲慢な女だと思うだろう。でもこうでも言わない限りは彼はやめてくれないだろう。
「変だろうか…」
「うん、変」
はっきりいってやると、彼は静かにストン、とベンチに座って大人しくなって地面を眺めていた。
ああ、傷付けてしまったな…
「ごめんねカラ松、だけど合わないよ、その服の上と下」
普通にジーパンとかなら、彼はスタイル良いしすごくいいと思う。まあここまで言っても忘れてしまうのだろうけどね。
「今度からそれやめてジーパンにしたら。そしたらカラ松ガールたくさんくるんじゃない?」
そう言ってやると、カラ松は顔を上げてわたしを見て『そうか!わかった!』と笑顔になった。

チクリ。

あれ?なんだろう、胸が痛い。

カラ松の隣に座り、今日の一冊をバッグから取り出す。
「今日は漫画なのか。小説メインなのかと思ってたぜ」
「そんなことないよ、面白そうなものはなんでも飛びついちゃうもの」
カラ松に手渡した漫画は、表紙に青い空と海とが描かれており、その空と海を背景に不思議な模様のはいったワンピースを着た女の子が微笑んでいる。
近未来を舞台にしたゴンドラ漕ぎの女の子の物語なんである。
「可愛いな」
興味深そうにぱらぱらとページをめくり、最後までそれが到達するとパタン、と本を閉じて、
「借りてもいいだろうか」
と一言だけ。目線は表紙の青に注がれたまま。
「いいよ、忘れないで返してね」

わたしがこの漫画を好きな理由。
それは青が印象的なことと、漫画の世界観がとても柔らかくて優しい空気で素敵だったから。
『恥ずかしいセリフ禁止っ!』
って友人から言われてしまうくらい、主人公は素敵な女の子だった。


今日は、3ヶ月後に控えたアンジェリクと橋本にゃーの合同スペシャルライブのレッスンがある日で、カラ松と別れた後一旦家に帰り着替えなどを持って再び家を出てレッスン場に向かう。
にゃーと顔を合わせるのは久々のことで、普段彼女がどれだけ忙しくしているのかよくわかる。わたしたちは同期で、デビューもそんなに変わらない時期なのでライバルだけどいい友達でもある。
相方のホノカはまだ来ていなかったけど、ライブの内容を少しずつでも膨らませていこうと考えていたらにゃーが現れた。
「カレン久しぶりだにゃん!」
もうすっかり口癖となってしまったにゃー口調も相変わらずだ。
「にゃー元気そうね、よかった。忙しそうでなによりじゃない?」
「そんなことないにゃん!おっと、着替えてくるにゃ」
そうしてぱたぱたと元気よく更衣室に駆け込んで行った。
ホノカはわたしとレッスン着に着替えたにゃーとでライブについて話していると来た。
「ごめん遅くなった!」
「先生まだだけど急いでね」
「うん!」
バタバタと更衣室に駆け込むホノカを見てにゃーが一言。
「ホノカ、にゃーの衣装着せたら絶対可愛いと思うにゃん」
たしかに。



レッスンが終わり帰途につく。
途中銭湯の前で珍しい6つの同じ顔をした男の子たちを見かける。
どことなくカラ松に似ていたけれど、気のせいだと思うことにした。

そういえばあのイタイ男は今頃何をやっているだろうか。あの漫画読んでくれてるといいな。
空を見上げると、きらりと一筋の光が左から右へと流れるように消えていった。



ALICE+