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定期ライブに向かう途中、カラ松を見かけた。
道路の反対側だったから声はかけなかったけど、猫背の男の子と一緒だった。顔立ちは少し似ているかも。
二人揃いのパーカーを着ていて、カラ松は青、もう一人は紫色。
「ペア、ルック…?!」
一体どんな関係なのか気になったけど、ライブに遅刻は厳禁なので先を急ぐことにした。

そういえば、公園で会う以外のカラ松をわたしは知らない。
どんな男で、どんな仕事をしていて、好きなものは何か。彼女はいるのか…
あんなところでナンパ待ちしてるくらいだから、いないんだろうけど。

時間になり、わたしとホノカは楽屋を出てステージへ向かう。
この中にカラ松がいたら。
「連れ去って欲しい…」

「カレン?」
ん?今口に出ていただろうか。隣を歩くホノカが驚いた顔でこちらを見ている。
「カレン大丈夫?」
「ん、うん、何か言ったかな」
ホノカは察してくれたのか、横に首を振ってそして
左手で拳を作って振り上げて、
「今日もお仕置きしちゃうぞー!」
「お、おー…!」
つられてわたしも右手に拳を作って振り上げて、二人顔を見合わせて笑った。


カラ松は当然ながらきていなかった。
あの男の子は誰だろうか、どこに向かっていたのか、そんなことがライブ中気になって仕方なかった。

何だろう、この気持ち?
恋?まさか。ないない。
あいつのどこに惹かれたというの。

「カレン何かあった?今日何だか上の空だったよ」
ライブ終了後、楽屋でホノカが話しかけてきた。
最近ホノカは携帯とにらめっこしていて、あまり楽屋で会話をしていなかったからすこし驚いた。
歌詞を飛ばしそうになったし、MCにキレがないとスタッフに注意されたし。
今日はたくさんホノカに助けられた。

今日の自分はアイドル失格だ。見にきてくれたお客さんが楽しみにしてるはずの自分をきちんとできなかった。
「疲れたなぁ…」
ホノカに聞こえないように、そっと口にしてみた。
本当の自分はツンデレで小悪魔じゃない。静かに本を読むのが好きな地味女だ。

「あ」
携帯に着信が入る。表示された名前は松野カラ松。
「…もしもし」
心なしか声も小さくなる、カラ松もソロソロと話し始める。
『可憐?…いま、大丈夫か』
「え、ええと、後で掛け直してもいい?」
『すまないな、本を返そうと思ったんだ』
「そう?後でまた掛け直すわね」
『あ、ああ』

それじゃあまたあとで、と電話が切れて、こちらも通話ボタンを押し、ホームに戻ったスマホ画面を見ながらわたしは深くため息をつく。
(カラ松が相手だと調子狂っちゃう)
「カレン、先に帰るね」
すっかり着替えたホノカが楽屋の扉の前にいてそう声をかけてきた。
「ん、お疲れ様ー」
手をヒラヒラと振ると、ホノカも振り返してきて、そのまま彼女は楽屋を出て行った。
一人取り残された部屋はとても広く感じて、
「カラ松に電話しなきゃ」
早々に帰ることにした。

『はい、松野…』

電話の向こうではカラ松とは違う声が聞こえた。
「桜庭と言いますがカラ松さんはおられますか」
『ああ…おい、クソ松』
応対してくれた声とカラ松らしき声が聞こえ、やがてカラ松の声だけになった。
『可憐か、すまないな、今のは弟で』
「クソ松?って呼ばれてるの?」
『気にしないでくれ、弟は本当は優しいいい奴なんだ』
弟くんの何アピールなのか、必死で弁解しているカラ松も優しい男だよ、と思ったけどあえて口にはしないでおく。
「で、どうする?続き読むならまた持ってくるよ」
『ああ、頼む。いい漫画だな、『ARIA』』

カラ松と好きな本について話すのは結構楽しい。彼なりの解釈を交えて話してくれて、それは大抵おかしくもあるけど的を得ていることが多くて、引き込まれてしまう。
「ふふ」
『どうしたんだ?』
「何もない、じゃあ明後日ね」

明後日、カラ松の家に直接お邪魔することになった。




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